2900話:おいでませ〈黄金の国〉!! 遺産って、死んでないよね?w

ローダン

2900話あらすじ、最終回をお届けする。
すでに2901話が発売されており、ゴンドゥナトでは「〈それ〉を追い払うのに一役買った英雄ペリー・ローダン!!」としてめっちゃ歓迎されている一方で、殺人事件など発生して早速キナ臭くなっている模様。
3000話へむかって、どうなる宇宙英雄!?w

これまでのお話:
■ごやてん:>2900話:怪奇! 水星の地下に謎のレムール兵馬俑を見た!!(爆
■ごやてん:>2900話:莫迦には見えない新星!? 灯火は点された!
■ごやてん:2900話:時間との競争・ノヴァの下の救出劇

(承前)

時間との競争は続いた。
大規模なガス噴出によってプロジェクターの半数を失いながらも、〈ネット〉はその所期の目的を達し、高熱ガスはマンダームから逸れた。上空にくりひろげられるオーロラの乱舞はなおも怖気だつものではあったが、パラトロン・バリアは人々を護り抜いた。そして――。

以降、大規模なガスの噴出はなかった。というより、バランスの崩れたタルターンは急激に恒星としての態をうしなっていった。惑星マンダームも従来の軌道をはずれ、高熱ガスよりも、急激に下がっていく気温への対処が急がれた。
《ラス・ツバイ》が現地に到着してから4日後には、恒星タルターンはもはやわずかに輝くガス雲でしかなくなっていた。

現地の指揮を後続の《ミル・ヴァタリ》にまかせ、ソル系への帰途についた《ラス・ツバイで、ローダンは第1惑星エペチュアンから奇跡的に救出された2名の研究員を艦内クリニックに見舞った後、科学チームとの会議に臨んだ。

突然のノヴァ化といい、その後の経過といい、通常の自然現象ではとうていありえない。現状、最終的回答は出し切れないとしながらも、シクさんはこれを“システマティックな恒星の非安定化”と評した。本来、恒星の燃焼圧とバランスの取れているはずの重力が、時を追うごとに低下していくのが観測されていた。まるで反重力場か、重力定数が恒星内部でだけ下がってしまったかのような急激なものだった。
この「重力分解」現象の原因は当然のごとく不明。では、何者かが、意図的にタルターンの重力を操作したのだろうか。シクさんは、「意図的」という部分に疑念を示した。

赤色巨星オテルマも、想定された時期より100万年も早く新星となったわけだが、こちらではそれ以外の異常は観測されていなかった。シミュレーションは、オテルマがつかのま閃光をはなち、核へとむかって内破していく様を映し出した。後には白色矮星が残される。
ただし、ノヴァ化が急速に進展した結果、その重力域に囚われずにいる質量もかなり残存しており、こうした場合には、ごくわずかな年月のうちに赤色巨星へと“反転”するケースも過去に見られるという。

これに比して、タルターンで起こったのは星の進化の“加速”ではなく、完全な破壊である。“点火ミス”であるか、〈灯火〉からのライン上にたまたま位置していたため、オテルマのノヴァ化の副次現象としてこうなった可能性が高いのではないか。
ローダンはなるほどとうなずきつつ、内心うすら寒いものを感じていた。もし、ノヴァ化を使嗾した何者かが悪意をもっていたならば、クリスタル・バリアの有無にかかわらず、今頃ソルも新星となっていたのではなかったか……。

太陽系政庁でヘケナー・シャロウンに報告をおこなったローダンは、内惑星のお祭騒ぎは依然継続してはいるが、水星へむかったグッキーのおかげでパラ暗示関連の調査が進展していると聞かされる。

「彼の派遣は、いいアイデアでした」
「時折、いいアイデアが浮かぶものでね。その最たるものは――この“下”にあるよ」
「ちがいない」

つかのまの談笑。続いて話題は〈無限の昏き獣の深き目〉に移った。
シャロウンの曰く〈ディープ・ダーク・アイ〉――現代のラテン語ともいえる英語で、〈無限の昏き獣の深き目〉につけられた“略称”――の探査結果が届いていた。ソルとオテルマを結んだ直線の延長線上、銀河間の虚空に、さらに2つのノヴァを示す微弱なハイパー・シグナルが確認されたという。
最初のものはソルから5000万光年。つづいて、さらにまた5500万光年の距離に。
こうして揃った“3つのノヴァ”の、その直線を伸ばし続けると、2億光年かなたのひとつの銀河へといたる。
NGC4622……銀河の回転が渦状腕を追いかける形の、異形の銀河である。

転送機で水星アサルク・シティへと到着したローダンを、すでにグッキーが待ち受けていた。テレポートで連れてこられたのは、〈セト〉の演算ホールである。

「グッキー・テレポート(無限)のご利用、誠にありがとうございまぁす」

グッキーは一本牙をきらめかせ、ちょうど判明したばかり、という分析結果を告げる。
まず、各惑星で生じている多幸症的感情の発露。これは予想通り、ハレム・アーミーからのパラ暗示的感化力が確認された。すでに現在、遮蔽のための作業に取りかかっている。数日中に事態は好転するだろう。
そして、メンタル安定化処置を受けたものの多くも見た、夜空の光の染みについては――

「手品のタネ明かしみたいで笑っちゃうけどね?」

各惑星の磁気圏に、何者かが散布した大量のナノ粒子が発見されたというのだ。
何十億というそれらが、金星や火星のようなごく弱い磁場の惑星においても、長い時間をかけて所定の場所に集まり、特定のキーワードのようなもので光る染みを発生させる。ハレム・アーミーの暗示波とあいまって、3つの新星のつらなり――〈灯火〉の誕生である。おいおい(笑)

と、そこで見慣れない科学者がひとり、近寄ってきて、

「ペリー・ローダン、その、ご伝言をお預かりしているのですが。いえ、その、別にわたしは暗示で強制されているとかではなく、お願いされただけで。伝言というのも、あなたへのお願いといいますか」

聞いてないことまでペラペラしゃべり出す男。
やむなし、と先をうながすローダンであったが。

「ハレム・アーミーのところへ、もう一度訪れてほしい、と」
「……誰からだね?」

科学者は、そわそわした笑みを浮かべて、

「その……ハレム・アーミーから、です」

ローダンが、グッキーとオピテル・キントを伴い訪れた発掘現場は、依然として兵とタラ型ロボットによって封鎖されていた。
ハレム・アーミーが立ち並ぶ洞窟も、無数の拘束フィールド搭載ゾンデが飛び交い、ことあらば取り押さえる準備が整えられている。もっとも、あれ以降、敵性ロボットの出現は確認されていなかったが。
また、洞窟内には可搬式パラトロン・バリア発生装置も据え付けられ、暗示波の遮蔽も実行されているようであった。

洞窟上部のプラットフォームから見下ろすと、ハレム・アーミーは皆一様にかなたの一点……NGC4622の方角を見据えていた。
グッキーを見やると、どうやらメッセンジャー・ボーイの仲介は無用みたいだね、とつれない返事。
致し方ない。目を閉じて、覚悟を決めたローダンが再び目を開けると――すべてのハレム・アーミーの視線が、彼へと集まっていた。これはビビるwww

そして、ハレム・アーミーの声が――音声が――空洞に響き渡った。

「ペリー・ローダンよ。放浪者はその力の集合体を放棄した。その種族たちは再び自由だ。だが、放浪者の退去は、他の悪しき勢力の欲望を喚起することになるだろう」

一瞬の間をおいて、十字通路によって4組に分けられたハレム兵の、左手前の集団が、

「われら〈追われし種族〉が庇護を提供しよう」

右手前から、

「われらは放浪者の継承者に、われらとの盟約を申し出る」

左後ろの集団は、

「灯火をたどりて黄金の国へ来たれ」

右後方からは、

「銀河系が生き延びることを欲するなら、キミと、人類と、ゴンドゥナトとの間の盟約が必要だ」

わずかの間――そして、再びすべてのハレム・アーミーの声が、

「ペリー・ローダン。キミには、期待している」

-*-

完璧に刈り込まれた芝生は、やんだばかりの霧雨の滴できらめいている。ツツジ、ゼニアオイ、ラベンダー。可憐に咲き誇る薔薇。湿り気を含んだ芳香を吸い込みつつ、ペリー・ローダンはこの英国庭園の主と言葉をかわしていた。

「……で、そのお誘いを断ろうとか、考えてもいないんでしょう?」
「クサい臭いは元から断たなきゃダメだからねっ」

元々、イロイロな事件が同一の方角を指ししめしていたのだ。ハレム・アーミーの勧誘は、いわば最後の一押しにすぎない。

「でもなあ……そのイロイロがなあ。マンダーム人やら、アダウレストやら、ラール人やら。これほっぽり出して、出かけちゃっていいもんかなあ、と」
「いや、それをあたしに言ってちゃいかんでしょう。シャロウンとかに相談なさいな」
「いやいや、あいつらがなんて言うか、わかってるもの」

自由テラナー連盟から自由ギャラクティカー連盟へと発展的改組を指導したヘケナー・シャロウンは『連盟は成長したんです。大丈夫ですよ』と根拠のない自信をしめすだろう。
イロイロと他者を信用しないヴィンガーデンなら『あなた抜きでも、アダウレストをつかまえるくらい朝飯前です』と胸をはるだろう。逃げられたクセに。
英国庭園の主はため息をついて、グラスに注いだウイスキーを勧めた。

「アイラのシングル・モルト、18年ものです。これ以上古いやつは、アメリカ人にはもったいなさすぎて」

ローダンはジト目を返して、

「ミスタ・アダムス、キミは時々ひどいこと言うね……。それはそれとして、頂こう。相変わらずオンザロックにはしてくれんのだな」
「良いウイスキーに対する冒涜ですぞ――で、あたしに、背後にかくれた灰色の枢機卿になれ、と」

ローダンはうなずいた。シャロウンやヴィンガーデンには、彼やアダムスの持つ幾千年の経験がない。それを必要とする事態がやってくることを、なぜか彼は確信していた。

「いつご出発です?」
「6月10日に」
「では、それまでにあたしも準備しておきましょう。いってらっしゃいな、その“黄金の国”とやらを探しに」
「ありがとう、ホーマー」

かくして(ローダン的には)準備は整った。

出発の日――ローダンは最終乗組員を出迎えるコルヴェットの搭乗ランプの下で、テラ・パラノーマル人材研究所(TIPI……なんか動画になりそうな略称w)のアタピリー教授と談笑していた。このミュータント学校の長からは、今回の遠征にあたり、ドン・ヤラドゥアを紹介してもらっていた。おそらく、彼の不在中にも、連盟が頼りにするだろう人物である。
そこへ、最後のひとり――考古学者のデジオ・ガッタイがグライダーで乗りつけてきた。発掘作業の引継ぎに今朝までかかったとボヤきつつ、ランプを悠々と上がっていく。《ラス・ツバイ》では、パラトロン・バリアで遮蔽されたハレム・アーミー2体が彼を待っているのだ。

「新たな旅、新たな航海、というところですか」
「新たなる、未知への突撃です。教授」
「幸運を」

ローダンの乗り込んだハッチがプシュっと閉ざされ、テラニア・スペースポートの喧騒を断ち切った。

「呼ばわる声があり、乞われた願いがあり、届いた招待がありました。それに応えるため、この幾週、巨人をめざめさせる準備が進められてきました」

〈刮目放送〉アウゲンクラーリポーター、ナーティヤ・コマルカンのアナウンスの流れる映像は、天の川の星々を背景に浮かぶ《ラス・ツバイ》を映し出していた。もっとも、クリスタル・バリアが展開されてひさしく、星々の光をさえぎっているため、CG加工したものである(笑)

「3万名を超える志願者――大半はテラナーですが、多くの友好種族からも乗組員は構成されております。これはもう、空飛ぶひとつの都市であり、自由ギャラクティカー連盟のみならず、これを超えた共同作業の理念を体現する世界といえましょう」

船殻から光の漏れていた格納庫に、1隻のコルヴェットが吸い込まれてゆき、ハッチが閉鎖された。やがて、インパルス・エンジンの輝きとともに、巨船が動き出す。

「大航海がはじまりました。いまグラヴィトロン・フィールド・エンジンが作動し、見えない力が船体を牽引していきます。ホークIVコンヴァーターが動き出すまであと数分。《ラス・ツバイ》はリニア駆動で銀河系のはずれまで飛び、そこから本来の意味での冒険、ハイパートランス・プログレッサーによる銀河間航行がはじまります」

船影が微細な点となり、まもなく消え失せた。
その針路へむかって、3つの光点が輝く。

「旅路の終点で、ペリー・ローダンと乗員たちを待つものはいったい何か? それを知るものは、彼ら自身だけでしょうが……冒険を終えた彼らが戻り次第、われわれ〈刮目放送〉はどこよりも早く、テラナーの心に寄り添いお届けることをお約束します!!」

(終)

■Wikipedia:NGC4622 (英語版)

Posted by psytoh