コミック『リトル・ペリー 1. 放浪惑星の秘密』

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8月29日、ローダンのジュブナイル・コミック『リトル・ペリー 1. 放浪惑星の秘密(Der kleine Perry 1: Das Geheimnis des Wanderplaneten)が発売された。

ハードカヴァー 総天然色オールカラー本文92頁
ストーリー:オーラフ・ブリル
作画:ミハエル・フォークト
対象:8歳から

シナリオ担当のオーラフ・ブリル(Olaf Bril)は1967年生まれ、フリーの作家兼編集者。70年代からのローダン・ファンで、1000話記念のヴェルトコンにも参加し、多くのファンジンやLKSへの投稿も。
2007年からアリゲーター・ファーム社(ローダン・コミック『ペリー』の版元のひとつ)で原作を務め、作画担当のフォークトと知り合う。2人で組んで業界紙phantastisch!等に掲載されたコミック『奇妙な一日』シリーズは複数の出版社から集成版も出ている。
近年は編集者・作家としてローダンに協力。多くのミニシリーズやNEOにも執筆している。

奇妙な一日(Ein seltsamer Tag):
『奇妙な一日/ロボット寓話』(Atlantis社)、『奇妙な一日/宇宙間鉄道その他のロボット寓話』(Panini社)等。ロボット労働者ノーバディを主人公に、だいたい2頁1話構成とのこと。写真は前者の表4だが、エシュバッハが「phantastisch!を買ったら一番最初に読むとこだよ!」と献辞を寄せている。

作画担当ミハエル・フォークト(Michael Vogt)は1966年ベルリン生まれのイラストレーター。Bastei社から出ていたホラー・コミック『ゴースト・ストーリーズ』や、風刺雑誌“世界一理性的な雑誌MAD”などを手がけていたが、有名所としてはSFシリーズ〈宇宙パルチザン、マルク・ブランディス〉のイラストやコミカライズ、ジュブナイル・サッカー小説〈サッカー鮫〉のイラスト、上記ブリルとの共作〈奇妙な一日〉シリーズ等。
アリゲーター・ファーム版『ペリー』の作画も一部担当している。

マルク・ブランディス(Mark Brandis):
1970年から1987年にかけて全31巻が刊行されたジュブナイルSFシリーズ。キャッチフレーズが“信ずるもののために生きて死ね”で、パルチザンと銘打たれたように、地球を東方共和国と二分する欧米阿連合に出現した独裁者の野望に、中立の〈金星=地球・宇宙航法協会(VEGA)〉のテストパイロット、“呪われたプロシア人”ことマルク・ブランディスが立ちむかう。
2008年からWurdak社よりコレクター・エディションとしてペーパーバック版が出たほか、2012年からコミカライズ版がPanini社から、前日譚である〈宇宙候補生マルク・ブランディス〉のオーディオドラマ版が制作されるなど、息の長いシリーズである。

サッカー鮫(Fußball-Haie):
ストリート・サッカーを題材にしたジュブナイル・スポーツ小説。S.Fischer社から全10巻が刊行されている。シリーズ名は、おそらくチーム名。サッカーの才能に自信のある少年ペドロが、自分のサッカー・チームを立ち上げ、仲間を集め、監督をみつけ、ライバルとサッカー・コートや大会出場権をめぐって小競り合いをくりかえしつつ、成功をつかむ(?)まで――スポンサーのついた最終巻タイトルが『友情か勝利か?』なので、サクセスを投げ出している可能性も――を描く。

「ホントにここで降りるのかい、坊や。戻ってくるのは5時間あとだよ」「 だいじょうぶ、バターブレッドあるし。乗せてくれてありがとう」

ペット(?)のグッキーを連れてネヴァダ・フィールドに月ロケットの打ち上げを見に来たペリー少年。ママの設計したスターダスト号を遠くに眺めながら、「ああ、ボクもスターダストで宇宙へいってみたいなあ」
次の瞬間、グッキーに手をとられた少年は、ポン、という音とともに見知らぬ場所へ。
そこはカウントダウンの進む、レジナルド・ブル大尉、ラス・ツバイ大尉(おお、フリップ……)、コンピューターの専門家、女性科学者ハミルトン博士と船医エリック・マノリ博士の乗り組んだスターダスト。このへんポリコレのためくさい。
打ち上げからまもなく発見されたペリー(とグッキー)。緑のエネルギー・ビームを浴びたスターダストが月に不時着し、地球との通信途絶や、未知の球形宇宙船の発見等もあり、当初スパイと思われ軟禁されるが、またグッキーがテレポート。

「ああ、ボクもスターダストで宇宙へいってみたいなあ……え、なに?」

月の裏側に難破した球形船《アエトロン》にとびこんだ1人と1匹は、アルコン人の少女トーラとクレストおじさん(アップになると目尻にシワが……)に遭遇。ブルの誤解もとけ、不時着の原因となった未知のエネルギー力場を発する放浪惑星ワンダラーの秘密を探るため協力することとなる。

クレストの説明によると、1000年前アルコン星系にあらわれた放浪惑星〈永遠の若さの星〉の守護者ガーディアンは、当時の水晶王子率いるコマンドを一蹴し、すぐ武力に訴えるものはワンダラーの秘密を得るに値しないと姿を消したという。歳月のすえに平和を愛する種族となったアルコン人の高等議会は、ワンダラーを再発見すべく、非武装の研究船として《アエトロン》を派遣。シュプールをたどり太陽系へいたったのだが、スターダストと同じく緑のエネルギー場によって月面への不時着を余儀なくされた。

(上から) ワンダラーのガーディアン、〈出題者〉、火星大迷宮の門番、ヒュジオトロンの管理人

なお、本来の乗員はクレストただ1人で、トーラはいつのまにか潜り込んでいたらしい。「どっかで聞いたような話だな……」とつぶやくブル(笑)

突如《アエトロン》に侵入してきた〈出題者〉の言葉をうけ、ペリーらは“資格”を賭けた謎解きに挑むことに。月から火星の大迷宮、そして準惑星ケレスへと冒険はつづき、ついに7つの謎を解いた一行は生理学的装置ヒュジオトロンの管理者からその使用を認められる。一種の“アップデート”で、異星の大気や水に含まれる毒素への耐性を得るペリーとトーラ。
一方、クレストやブルらは副作用で少年少女に……さすが永遠の“若さ”の星(笑)

ヤング・ローダンの冒険とするにあたり、ペリーがおそらくローティーンの少年となった他、アルコン人が頽廃デカダンに陥ったという描写がなかったり、スターダストに新型エンジン〈リブロトロン〉が搭載されていたりする。

■リブロトロン駆動(Librotron-Triebwerk):
ローダン正篇におけるリブロトロン駆動は、カルプやワリング・コンヴァーターの発展形。2700話台に使用されているホークV型補正コンヴァーターで三層構造の補正フィールドを展開し、内側二層のフィールドで牽引力を発生。亜光速・超光速航行時の推進にも使用するというもの。なお、“ホーク”も元々の開発者名に由来する。
本コミック中での機能は、昔ハヤカワ版巻末のローダン百科で訳出された「フィールド・エンジン」に近いようだ。

もっとも、一番の改変はペリー少年のママ、メアリさんだろう。正篇では看護師だったメアリさん、本コミックでは“スターダストの設計者”という肩書き。(準惑星ケレスにいる)ペリー少年から電話がかかってきたときも、お庭で小型ロケットみたいな代物をトンテンカンテンやっており、その風体は科学者というより市井のあやしい発明家である。
「あら、ペリー。いまどこにいるの? グッキーもいっしょ?」
「ボクらスターダストに乗ってるんだ。月に、火星に、ケレス……。ねえママ、新しい友だちとちょっと銀河へいってきていい?」
「ふーん、わかったわ」(まったく、男の子の想像力ときたら……)
まるで動じないのがステキだママw

ともあれ、ママ・メアリのアドバイスを受けて、スターダストを上極にドッキングした《アエトロン》。地球人テラナーとアルコン人が手を携えて、ワンダラーの超知性体のもととなった種族の母星〈浮浪者トラムプ〉の手がかりをもとめて、銀河系の星の海へといま旅立つ。
「イルトも忘れないで?」
「イルトもいっしょ!」

……そして、冒険はつづく。
第2巻、ヴェガ星系を舞台とした『2. 四十二世界の国』は2024年発売予定とのこと。

■Carlsen社公式:Der kleine Perry

Posted by psytoh