2300話:速報! お試し版

ローダン

2300話『混沌の先触れ』
かれらは《反逆者》のけだもの――
そして滅びをもたらすもの

 時は新銀河暦1343年。ところは太陽系政庁。
 自由テラナー連盟の政庁議会メンバー711名を前に、政庁首席ペリー・ローダンが壇上にのぼる。
「議員諸兄にはご多忙のなか、本日の秘密会議にご参集いただき感謝のきわみ」
 ローダンの手で、データ・クリスタルがきらりと光る。
「LFTの構成世界は現在3143。そして、力を増すごとに、責任も大きくなる。銀河を導き――ひとつとするために」
 やがて、投影される巨大な銀河系のホログラム。LFT、アルコン、アコン、ガタス等の勢力が色分けされている。
「この銀河がいま必要としているのは、ヴィジョンだ!」
 力説するローダン。その昔、ヘリオートスがトレゴンの勧誘にやってきたとき、まったくおなじセリフを吐いたことをおぼえているものが、この場にはたして何人いただろうか。
「そのヴィジョンを創出するための計画を、これからお聞きいただこう……くくく……」
――と笑ったかはともかく。やってることは、まんま世界征服をたくらむ悪の秘密結社な政庁首席であった。

 ところ替わって、アルコン神聖帝国の中枢、水晶宮。
 朝シャン――もとい、貴重な自由時間に入浴を楽しむボスティク皇帝のもとへ、ドリュハン人の執事が2名、つつつつっと。
「失礼いたします、陛下。テラナーのローダンめから電報でございます」
 ローダンからの連絡は必ず至急でもってこいと命じてあった手前、いたしかたなく読み上げさせる皇帝陛下。
『陛下にはご機嫌うるわしゅう♪ そちらの秘密諜報局から報告いってると思うけど、テラでは最近、技術的新機軸バリバリでございまして。このたび、それを一般公開するにともない、〈銀河種族再興会議〉と題して一大プロモーションを行ないマッスル。興味と関心がおありでしたら、アルコンにも技術供与しないでもないので、1月4日の予定日には、ぜびご来駕乞う。くわしい話は大使レベルでねっ(はあと)』
 頭をかかえたボスティク、執事の差しだす予定表を一瞥して、
「2月4日に行くと伝えよ……」
「2月……でございますか?」
「2月だ」
 丁々発止のかけひきは、すでにはじまっているのだった(笑)

 ほぼ同じころ、〈ターミナル・コロン〉のネガ・ホールにて:
 先の任務で重傷を負ったデュアル・キャプテンは、査問に呼び出されていた。
 姿なき声が――
(座んなはれ)
 からだじゅう痛くて腰もかがめられないデュアル・キャプテン、立ったまま。
(えらいまたよーさん失敗しなすったなあ?)
(10万隻の〈トレイタンク〉を貸したって、もどってきたんは2000隻足らずや)
(軍隊をハブにして、自分はのうのうと帰ってきたんかい?)
「ですが、相手の損害の方が、何倍も――」
(ほな、任務は成功やったけか)
「――いえ。失敗でした」
 死を覚悟するデュアル・キャプテン。
 しかし、ターミナル・コロンの〈プログレス維持者〉のみなさんにも、いろいろ意見の相違はおありのようで、
(ま、あんさん創るのにも、よーさんぜぜこかけたしなあ)
(いろいろはっきりするまで、また別の機会に挽回してもらお、思てな)
(コロン要塞《トレイコーン0098》をさしむけるよって)
(銀河系いうとこの、ソル星域を確保してんか)
(邪魔するもんは消してもええけど、利用できるんをこわしたらあかんで?)
(ほな、このくらいの任務は、ちょちょいのちょいやろな~)
(せいぜいきばりぃや~)
 声が遠ざかる。一瞬、顔のようなものが見えた気がしたが――
 査問は終わった。コロン通信経由でデータを呼び出すデュアル・キャプテン。
 頭の中はクエスチョンマークでいっぱい。
「なんで、この俺様に、こんなちゃちい仕事を?」

 さて、時は流れて、再興会議開催も、はや翌日。
「で? どんな具合?」
「月のHWG-1は順調。水星の〈裏門プロジェクト〉もまあまあだ」
 自由テラナー連盟政庁首席ペリー・ローダン氏は、太陽系政庁内部のホテルを視察していたりなんかする。ご案内は、なぜか老けないモンドラさん。
「〈テラノヴァ艦隊〉は、どしたの?」
 ローダン、しぶい顔で口ごもり、
「ま、まあ万事が万事うまくいくわけはないということで――というか、ここがボスティク皇帝の泊まるスィートルームかなあっ?!」
 雑談モードを脱して、調度類を説明するモンドラさん。
「と、ゆーわけで、〈カロン星団〉にいるアトランの意見を参考に、ゴノツァル8世時代の水晶宮をモチーフにした装飾をあしらってみましたー♪」
「……ま、これならむこーさんも文句はいうまい」
 ぴぴぴっ。
「――え? ホログラム博物館でトラブル? ごめんなさいペリーちょっとはずすわねー」ぴゅーーーっ。
「…………」
 ひとりさみしく皇帝お付きのお貴族様用の部屋を視察したりする、政庁首席。
 と、そのとき。
(ペリー・ローダン……)
 ふりかえると、そこには妙齢の美少女がっ。
「わたしはここだよハニーーーっ」
 幽霊のようにぼんやりした少女。アームバンドの探知機にも反応なし。なんか、前にもこんなことあったと思うのは、読者だけなのだろうか。〔註:ローダン・アンドロメダです〕
(わたしは、ファウン・スズケ……やっと、みつけた……警告しにきたの……けーいーこーく、わかる? ……ターミナル……負の球体…ハンガイ……)
 肝心なことを伝える前に、デンパの受信状態は劣悪になり、少女の姿はかき消えた。
 折悪しく、そこに予定より半日も早く、ボスティクの御座艦隊アルク・インペリオンご到着の連絡が入る。
「まったくボスティクったらわざとこっちの予測を上まわってみせて嫌味なことこのうえないったら急ぐわよペリーっ!」
「あの、ネーサン? ファウン・スズケの名前で、あるだけぜんぶのデータ・バンクを検索しといてくれぇーーー」
 もどってきたモンドラさんにひきずられ、アルデバラン宙港へ急行する政庁首席なのであった。

 テラニア上空に、いまわしい占領時代を想起させるアルコンの船。
 グワロン級12隻で、旗艦は新造の《ゴス・テュサン》。杯の上には、ボスティクご自慢の〈空飛ぶ水晶宮〉ゴス・テアウルトカンが鎮座ましましている。
 ……太陽系政庁への対抗心むきだしで、単独で超光速航行も可能な代物である。
「やー、皇帝、ようこそようこそ」
「……きみの政庁はぷかぷか浮かんでいると思ったが?」
「それは、ま、警備上の理由もありまして。高いとここわいヒトも来るかもしれませんしねー。ははは」
 高いとこ好きななんとかがふたり。丁々発止のかけひきは、再びつづくのであった。
 その夜。
『む……あの壁画はアルコン暦19000年ごろのものだな。調度はゴノツァル8世時代の――にしては、配色がちがうぞ?』
『(うわやっぱ歴史オタクだこいつ)あー。デッドコピーだとお気を悪くされると思いまして。新しいカラーリングもちゃんと専門家がやってますんでー』
 皇帝の相手にへとへとになり、ベッドにへたれこんだ政庁首席を、ネーサンのコールがたたき起こした。
「検索のー結果ー、ファウン・スズケはモノクローム・ミュータントで、テレパス、享年19歳、ゼーレンクヴェルから分離した〈ニュークリアス〉の一部と、こんなん出ましたー」
 眠い目をこすりこすり、冷たい水で顔を洗って、ブリーやカーティス、デーリアン等、主だった面々に警報を出す政庁首席なのだった。南無。
 ……とはいえ、単に不幸と寝不足を分かちあたえただけで、すぐまたベッドへ逆戻りでは、極悪非道なことはなはだしいと思うが如何。

 さて、時をおなじくして、《トレイコーン0098》:
「いいか、けだものども! デュアル・キャプテンが最初の任務をくだされたっ!」
コロンけだものの隊長、ゾン・ファクテルのがなり声。
「おおおおおっ!!」
 歓喜のおたけびをあげる〈混沌のアサシン〉たち、その数、60名。
 柱のような両脚、2本の走行腕、2本の行動腕。構造可変能力をもち、目は頭の両側にひとつずつ、額にひとつ。
 けだものって、やっぱりあのけだものだよなあ。
「現在《トレイコーン0098》は目標星系ソルの玄関口にある。この銀河の要人どもが、なにやら会議のために雁首そろえて集まってやがる! 強襲して、そいつらを抹殺する! お手軽な任務だとデュアル・キャプテンはお考えだ!」
「おおおっ!!」
「今回利用できるのは〈暗黒カプセル〉3機! 1機に9名ずつだ! あとの連中は居残りだっ!」
「おおお……っ」
「おちつけっ! 進撃はまだはじまったばかりだっ! 留守番だからって、俺らの家、喰っちまうんじゃねえぞっ!」
「お、おおー」
 よく見れば、さすが閑職。広大な格納庫には、まだろくな装備もない。アサシンたちの住むほったて小屋が累々と並ぶばかり。じき、増援ともどもトレイタンクなども届く予定だが、今回の任務程度には、必要もない。
 選抜されたメンバーが、意気揚々と暗黒カプセルに乗りこむ。推進系と暗黒フィールド発生装置を兼ねるスープラトロン・コンヴァーターがうなる。
「準備はいいか? ようし、けだものども、発進だっ!!」
「おおっ!!」
 3機のカプセルがスタートする。宇宙空間、巨大なコロン要塞を背景に、かれらがむかう先は、惑星テラ、首都テラニア、太陽系政庁である。

《本編へつづく》

#嘘は書いてないよー(笑)

Posted by psytoh