フルロックの聖域 -3-

ハヤカワ版, 誤訳

なんか……むしろ長くなっているのはなぜだろう?(笑)
いや、必ずしも誤訳でないのまで混じってしまったからなのは、明白なのだが。

■42p

ハヤカワ版:
「ここなら、ステーションを覆う腐植土層もごくわずかだ。この近くなら、どこを掘っても、すぐ金属面が顔を出すはず。

原文:
“Wir haben eine Stelle gefunden, wo die Station nicht hoch mit Humusboden bedeckt ist. Vielleicht ist es auch nur eine Art Ausläufer, den wir entdeckt haben. Immerhin sind wir jetzt sicher, daß unter uns nicht nur Nährboden existiert.”

試訳:
「ステーションを覆う腐葉土がさほど厚くない箇所を見つけ出しましたな。ある種の突端であるかもしれませんが、とにかく、いまや足下にあるのが腐葉土ばかりではないことが確実になったわけです」

どこを掘っても、って、どこに書いてあるのさ。Wo immer とか見あたらないけど。

■43p

ハヤカワ版:
「たぶん、そうでしょう」と、ガイト・コールはにやりと笑い、

原文:
“Sie haben wahrscheinlich recht”, sagte Gayt-Coor zögernd.

試訳:
「たぶん、そうでしょう」と、ためらいがちにガイト・コール。

笑ってない、ない。

ハヤカワ版:
それだけじゃない。保安システムがまだ機能していた場合、通信を傍受されてしまう」

原文:
Außerdem besteht die Gefahr, daß die Botschaft von Fremden abgehört wird.”

試訳:
加えて、通信を傍受される危険性もある」

よっぽど保安システムにしたいらしいが……。結局、そんなシステムは出てこないのに。

ハヤカワ版:
 アッカローリーは腕をおろした。
「いずれにしても、もうすぐ日没だ。

原文:
Zeno schaltete das Geräte wieder aus. Er sah sich um.
“Die Sonne ist untergegangen. Es wird bald dunkel sein.

試訳:
ゼノは装置のスイッチを切った。あたりを見まわして、
「日も落ちた。じき、暗くなるぞ。

前の文章が、「スイッチを入れようとした。」ではなく、「スイッチを入れた。」である。時制については何をかいわんや。2章で、太陽を見て、「午後遅くだ」→「もうすぐ沈む」と来て、今回が「沈んだ」と順を追っているのに。

■44p

ハヤカワ版:
「さ、はいってみよう」と、ゼノがいった。

原文:
“Worauf warten wir noch?” fragte Zeno.

試訳:
「さ、なにをもたもたしてるんだ?」と、ゼノ。

どーでもいいが、ゼノの短気なようすがあらわれた科白だと思う。

■45p

ハヤカワ版:
黒い金属プレートがあらわれた。
「水滴ですよ」と、ペトラクツ人銀河学者は、

原文:
Er hinterließ eine dunkle Spur auf dem Metall.
“Schwitzwasser!” reklärte Gayt-Coor.

試訳:
金属プレート上に、黒っぽい跡が残った。
「結露ですな」と、ガイト・コールが説明する。

#結露して、白っぽくなっていた……と見るべきか。少なくとも、水滴で金属はかくれないだろう。

ハヤカワ版:
 ガイト・コールは腐食した金属部分をさししめし、
「錆が浮いている! まともにメインテナンスしているのであれば、こうなるまで放置するはずがない。つまり、ここにはだれもいないということ」

原文:
Gayt-Coor deutete auf ein paar Metallteile.
“Es gibt Anzeichen von Oxydation! Ich kann mir nicht vorstellen, daß Wesen, die um das Fortbestehen ihrer Station besorgt sind, solche Spuren hinterlassen würden. Wahrscheinlich war schon lange kein lebendes Wesen mehr in dieser Halle.”

試訳:
 ガイト・コールが金属部分をさししめして、
「酸化の兆候があります! ステーションの存続に配慮するものがいたら、こんな形跡を残すとも思えない。おそらく、もうずっとこのホールに生命体は訪れていないのでしょう」

原文にないのに、「錆びた部分をさした。『錆びている!』」はあんまりな日本語。酸化→錆は適度な調整だと思うけど。

■46p

ハヤカワ版:
「早くステーションにはいろう」(中略)
「ステーションかどうか、まだわからない」

原文:
“Wir müssen ins Innere des Raumschiffs vordringen.” …
“Es ist nicht bewiesen, daß es sich um ein Raumschiff handelt.”

試訳:
「宇宙船のなかへ入らないと」
「まだ宇宙船と決まったわけではないぞ」

どちらも原語は「宇宙船」である。たしかにステーションでも宇宙船でもかまわないと、上で書いた気がするが……。意味不明な変換。単に語呂優先か。

■47p

ハヤカワ版:
 アッカローリーは壁に開口部を発見する。内部には皿状の金属プレートがあり、金属棒で固定されているように見えた。

原文:
Zeno fand schließlich eine zweite Öffnung. Sie ruhte auf einer Metallscheibe, die durch eine Stange mit der Schachtwand verbunden war. Die Schale erinnerte Rhodan an eine flache Badewanne.

試訳:
 やがてゼノが第二の開口部を発見した。その下のシャフトには、壁とバーで接続された合金製の円盤があった。受皿部分は、平べったいバスタブを思わせる。

第二の開口部も、おそらくは床にあるはね蓋。バーの部分がアームになっていて、皿が上下するのだろうが……固定されてはまずいだろう。ちなみにバスタブなので、後でローダンが寝そべったりする(笑)

ハヤカワ版:
「それ以前に、どうやって動かすかが問題だろうな。もし、動けばだが……」と、テラナー。

原文:
“Das ist vorläfig nicht unser Problem”, sagte Rhodan. “Zunächst einmal müssen wir den Mechanismus finden, mit dessen Hilfe wir den Lift in Bewegnung setzen können – sofern er überhaupt noch funktioniert.”

試訳:
「さしあたり、それは問題じゃない」と、ローダン。「まず最初にリフトを動かすメカニズムをみつけなくては――そもそも、まだ動くとしてだが」

誤訳ではない。少し後で、なぜか友に冷たいローダンが「それも問題じゃない」と、さらに外道っぷりを発揮するので、そろえた方がおもしろいかな、程度である。

ハヤカワ版:
なんらかの合図

原文:
durch einen bestimmten Impuls

試訳:
特定のインパルスで

誤訳……というほどではない。ローダン世界のテクニカルタームということで。

ハヤカワ版:
 ローダンは思いきって、プレートに跳び乗った。すると、意外にもゆっくり下降しはじめる。なめらかな動きだ。すぐ跳び降りることもできたし、反重力プロジェクターを作動させてもよかったが、あえてそうしない。プレートがどこに向かうか、興味があったのだ。

原文:
   Entschlossen stieg Rhodan in die Schale. Zu seiner Überraschung begann sie sofort nach unten zu gleiten. Rhodan unterdrückte seine erste Reaktion, blitzschnell aufzuspringen und sich mit dem Antigravprojektor in Sicherheit zu bringen. Er blieb liegen und wartete, wohin ihn die Schale bringen würde.

試訳:
 意を決してローダンは受け皿に乗ってみた。意外にもすぐさま下降しはじめる。跳び降りて反重力プロジェクターを動かし逃れたいという衝動を、なんとか抑えこんだ。寝そべった体勢で、どこへ運ばれていくのかを待ちかまえた。

バスタブが泡でいっぱいなら鼻歌のひとつも出そうな感じ。友の手前、かっこうつけているみたいにも思える。誤訳というほどちがうわけではない。念のため。

■48p

ハヤカワ版:
 プレートは床に降りると、いったん停止し、ふたたび上昇を開始。ローダンはあわてて床に降りたった。

原文:
   Rhodan stieg aus der Schale, die lautlos wieder nach oben glitt.

試訳:
 ローダンが受け皿を降りると、リフトは音もなく上昇を開始した。

重しがなくなったから上がる、という機械的なものと思われる。関係代名詞ではあるが、それこそふたつの文として考えるべきかと。

ハヤカワ版:
 床も鐘状ドームと同様、ガラスのような物質製だ。ドームは高さが六メートル、直径二十メートルほどである。

原文:
   Das glockenförmige Gebilde aus glasähnlichem Material war etwa sechs Meter hoch und Durchmaß zwanzig Meter.

試訳:
 鐘状ドームはガラスのような物質でできており、高さが六メートル、直径が二十メートルほど。

床の話はどこにもない。

■49p

ハヤカワ版:
「乗り物というやつ、どこでも臆病者用に設計されているのでして」

原文:
“Wohin ich auch komme: Alle Transportmittel werden nur für Schwächlinge konstruiert.”

試訳:
「どこへ行っても、乗り物というやつは虚弱な者向けに設計されているものでして」

身体が「弱い」者用なので、屈強なガイト・コールだと……ということ。

ハヤカワ版:
「ペトラクツでは例外なのか? ヤアンツトロン人やデュイント人と違って……」

原文:
“Die Petraczer sind die Ausnahme”, erklärte Zeno. “Nicht etwa die Yaanztroner oder Duynter.”

試訳:
「ペトラクツ人が規格外なのさ」と、ゼノ。「ヤアンツトロン人やデュイント人と違って」

「ゼノがからかおうとするのを、」と付記するくらいなら、揶揄している内容くらい理解してほしいもの。

■50p

ハヤカワ版:
大声で歌っているが、どんなメロディーなのか、鐘状ホールの三人には聞こえない。

原文:
Die Männer, die ihn transportierten, sangen laut. Ihre Gesänge hörten sich unmelodisch an und wurden von den drei Raumfahrern innerhalb der Glocke nicht verstanden.

試訳:
男たちは大声で歌っているが、調子はずれなうえ、鐘状ホールの三人にはさっぱり理解できなかった。

「大声で歌っている」のは聞こえている。何を歌っているのかわからないのだろう。

ハヤカワ版:
「でも、殺人を見すごすのですか?」

原文:
“Sollen wir zusehen, wie sie ihr Opfer auf diese Weise quälen?”

試訳:
「捕虜をあんな風に虐待するのを見すごすのですか?」

苦しめるのであって、殺すとは書いていない。生贄であることがわかるのは、もっと後。

ハヤカワ版:
「いずれにしても、野蛮なのはたしかだ」ペトラクツ人がローダンに味方する。

原文:
“Aber es ist offensichtlich, daß sie primitiv sind”, ergriff Gayt-Coor Rhodans Partei.

試訳:
「だが、原始的なのは明白」ガイト・コールがローダンに味方する。

直訳した方が科学者っぽい。余談だが、この直後、捕虜虐待を非難したガイトが、捕虜にした神官をいたぶるありさまときたら……(笑)

ハヤカワ版:
「本題にもどろう」と、大執政官は話題を変えた。

原文:
“Das ist auch nicht unser Problem”, lenkte Perry Rhodan ab.

試訳:
「それも、われわれが問題とすべきことではない」と、ペリー・ローダンは話題を変えた。

47pに続き、ガイト・コールに冷たいローダンである(笑)

Posted by psytoh