アルコンの野蛮な古代(笑)

ハヤカワ版, 誤訳

早川版ローダンの475巻『獣の支配者』が現在書店に並んでいる。のだが。

1万年前のアルコン文明はどんだけ野蛮なんでしょ
ってかんじで、びっくりだよー ^^;;;;;;;;;;;;

……というメールを頂戴したので、しかたがない。近所の書店に足を運び、買ってきたブツで件の箇所を確認してみた。

うん、まあ……ショウガナイネとしか言いようのない部分でもあるのだけど。
一応、古代アルコン人の弁護など試みてみようか(笑)

ハヤカワ版(p110)
わたしはアルコン人の歴史の研究に没頭し、あるとき、コルプコルという名前に出会った。首狩り人で、生きていたのは旧オルバナショル家の時代、名高いアトランがまだ若者だった時期だ。
(中略)
文献の著者は若きアトランの友で、腹腔切開者として名高いファルトゥルーンだ。

原文:
Sehen Sie, ich habe mich viel mit der Geschichte der alten Arkoniden beschäftigt, und dabei stieß ich einmal zufällig auf den Namen Corpkor. Das war ein Kopfjäger, und er lebte zur Zeit des alten Orbanaschol, genau in der Ära, in der unser hochgelobter Atlan noch ein jünger Mann war.

Ein gewisser Fartuloon, Bauchaufschneider und angeblicher Freund des jungen Atlan, hatte ihn verfaßt.

試訳:
そうさな、古代アルコン人の歴史に没頭していたわたしは、あるとき、偶然にコルプコルという名前にいきあたった。古代オルバナショル帝の時代、かの高名なアトランがまだ若かりし頃の、賞金稼ぎだった。
(中略)
文献の著者は、宮廷医師にして、アトランの友を名乗る、ファルトゥローンなる人物だ。

……。
rlmdi.の刊行物等お読みの方はお気づきだろう。コルプコルもファルトゥローンも、ATLANシリーズで若きアトランの皇位(継承権)奪回を描いた「アルコンの英雄」サイクルの登場人物である。

コルプコルは80がらみのアルコン人。動物使いのKopfgeldjäger(ペリペより)。
Kopfjäger は、わたしの手元の辞書を見ても「首狩り族の人」と書いてあるわけだが……わりとローダンには出てくる単語である。惑星現住種が首狩り族であることもなかったわけではないが(笑)、たいていは刺客とゆーか、殺し屋的意味合いでとらえていた。
いつだったか、マガンと「ヘッドハンティングする人だったりしませんかねぇ」と冗談を飛ばしていたこともある。
で、今回初めて知ったわけだが……Kopf(geld)jäger となると、ちょっと意味がちがってくる。Kopfgeldは「賞金、身代金」である。かれ/彼らは、ヘッドハンターならぬバウンティハンターだったのだ。
余談ではあるが、コルプコルは、オルバナショル帝によって懸けられた賞金目当てでアトランの命を狙うが、紆余曲折あって(動物たちを殺すとか脅されて)、アトラン率いる反オルバナショル抵抗運動の一員となる。

さて、もう一方のファルトゥローンだが……アトランの育ての親とか、最後のカルル人とか、設定を書き出すときりがない。それどころか、時系列順で考えると、この時点でテケナーは、オッタクという偽名を称するかれと、実はすでに出会っているというおそろしい事実まである(けど、同一人物であることをテケナーは知らない……んじゃないかな)。まあ閑話休題。
問題のファルトゥローンの職業であるが、ペリペを見ると、 「アトランの父、皇帝ゴノツァルVII世の Bauchaufschneider にして顧問」となっている。で、Bauchaufschneider は直訳すればまさしく「腹をかっさばく人」なわけだが、イメージ的な外科医(Chirurg)であるのか、やはりペリペを見ると「アルコンにおける、高位の人物の侍医。貴金属コーライトの鎖証を持つ」となっている。皇帝侍医を「ハラキリ」とか訳すわけにもいかないので、そのまんま「侍医」とするくらいが妥協点だろう。
(余談だが、ドクター・ヒルルクの由来ってChirurgだねえ。今気づいたわ)

いつものわたしだったら、〈開腹師〉とか無理矢理訳すところだが、いまその字面を見るとリゼロの〈はらわた狩り〉しか連想されず、イシャと思えないので(笑)
#ゴノツァルVII世は叔父じゃねーの? とかいう疑問については、アトラン・データファイル読んでくだしゃー。

まあ……万やむを得ない誤訳ではあるのだけど。そろそろ、ローダン訳すなら、ATLANの設定くらい気にしないとやう゛ぁい段階に来てると思うんだよね。現在の早川版ローダンと同時期には、すでにアトラン400話台の「暗黒銀河」サイクルもすでに終盤のはず。

もうすぐ982話『選ばれし者』(民族じゃないよー)でも、アトランが「貴様っ、オルバナショルだなっ」と錯乱する場面とか出てくるしね……。ヘフト書いてる方は、「姉妹誌も読んで、くれてるよねっ(はあと)」な状態なわけで(笑)
知らない登場人物の名前が引用されてたら、せめてペリペを調べるくらいはしてくれないと、読者さんが困ってしまう誤訳ができあがる可能性は高い、と思うのよね。

以下は余録:

ハヤカワ版(p133)
“裂けた恒星”と“ハープーンのアルマダン”、どちらも情報はない。
「貴族趣味を感じさせる名称だ」ティフラーが考えながら指摘した。「すくなくとも、元の言語は確定できるかもしれない。オービターたちはいまだに沈黙ぎみで、ガルベシュ軍団はどうなった、と、たずねてみても、侮蔑的な視線が返ってくるだけだが」

原文:
Weder die “gespaltene Sonne” noch “Armadan von Harpoon” waren ihm ein Begriff.
“Der Name klingt aristokratisch”, sagte Tifflor nachdenklich. “Vielleicht läßt sich wenigstens feststellen, welcher Sprache er entstammt. Unsere Orbiter geben sich übrings weiterhin schweigsam. Wenn man sie fragt, was es mit den Horden von Garbesch auf sich hat, erntet man nur verächtliche Blicke.”

試訳:
“裂けた太陽”も“ハープーンのアルマダン”も、知らないという。
「貴族の名前みたいだな」と、考えつつティフラーがいった。「せめて、その由来する言語くらいは特定したいもの。あとは、収監中のオービターたちだが、相変わらずのだんまりらしい。ガルベシュ軍団とはなんだとたずねてみても、返ってくるのは侮蔑的な視線だけとのことだ」

動詞 klingen は「響く」。貴族的に響く、とは、お貴族様風(の名前)に聞こえる、という意味だが……ぶっちゃけ、ハープーン“の”アルマダンが、von 付きの名前であるからに過ぎない。アルマダン・フォン・ハルポーン、とか書くと、銀英伝に出てきそうに――見えないって?(笑)

was es mit ~ auf sich hat? は、「~とは何を意味するのか(was bedeutet ~?)」という熟語。そりゃあ、ガルベシュ人だと思っている相手から「ガルベシュ軍団とは何だ!」とか詰問されても、うろんな目しかしないわなぁ。

元統括さんがケツまくった前後から、ドイツ語のわかる外注編集者が訳文チェックしてると聞いていたんだけど……。
「あれらのドッペルゲンガーが人間でないなら、通常の手段では対抗できまい(p10)」は「あれらのドッペルゲンガーが人間でないことは、一般的な手段を用いずとも証明できる」だし、「多少とも、なにかわかればいいんですが。(p132)」は「多少なりともわかったことでよしとせねば。」だし。

たまたま、これが「〆切都合した」関係でチェックの時間が足りなかった分だったとかならいいんだけど。ねえ。

■Perrypedia:Corpkor
■Perrypedia:Fartuloon
■Perrypedia:Bauchaufschneider

Posted by psytoh