バジスバジス亀の子バジス (1)

ハヤカワ版, メモ, 誤訳

昔、《ソル》といえば鉄アレイ、《バジス》といえば亀の子タワシだった(私的見解)
ダンベルと聞くと、どうしてもバーベルの縮小版を連想してしまうわけだが、まあそれは今回はさておいて(笑)
亀の子タワシは、ぐるりと輪で結束されているあたりが、いかにも《バジス》っぽくて微笑ましい比喩であったのだ。さて、いよいよその登場回だが。

しかし、まず最初に、わたしの苦手な分野からすませてしまおう。
数字の訂正の話である。
7/31 参考文献追加
   そして単位をそろえてねぇええっorz箇所訂正

テラワットとキロワットの深くて暗い溝

■ハヤカワ版(P15)
「計測可能な活動に必要な消費エネルギーの総計は、十八テラキロワットに相当しますが、実際の消費量は二十六テラキロワットになっています」

原文:
  “Die Summe aller beobachtbaren Tätigkeiten der Hyperinpotronik entspricht einem Leistungsverbrauch von achtzehn Terawatt. Der tatsächliche Leistungsverbrauch liegt bei sechsundzwanzig.”

試訳:
「ハイパーインポトロニクスの公開された活動を合計すると、消費電力は十八テラワット。ですが、実際の消費電力は二十六テラワット前後に達しています」

Leistungsverbrauch は「消費電力」。何ワットの電力を消費するか、という言葉である。相当する、じゃなくて、まんま電力のお話。
「ネーサンは、公称18テラワットの出力(発電能力)がある発電所をフル稼働させますといいながら、実は26テラワットの出力(電力)を使用していました」ということだ。

○「26テラワットを使った」
×「1時間あたり26テラワットを使った」
×「年間累計で26テラワットを使った」

「あとがきにかえて」で訳者さんがいろいろと書いているが、どうやら、意味をちゃんとわかっていないデータを横並べにして、意味の異なるデータを「比較」して、とんでもなく間違った結論を導き出している。
本文で話題になっているのは、出力(発電能力)をどう分配(使用)しているかである。
作業内容が明らかなものが18テラワット、隠蔽されていたものが8テラワットということだ。合計26テラワット。

さて、そこで問題なのが、

■ハヤカワ版(P262)
日本の電力会社の総発電量というものが、(中略)それを合計してみたところ、一時間あたり最大で二億キロワットほどになった。

一般にいう日本の電力会社の総発電量、というのは出力(発電能力)の話。「東電が6500万キロワットの発電能力がある」とか、TVでもよく見かけるようになった。日本全体では最大2億キロワット前後を生産できる。
ただし、(キロ)ワットに、「1時間あたり」という意味などない。

単位をそろえて比較してみよう。

ネーサン管轄下の発電能力 26テラワット=26兆ワット
日本(2012年)の発電能力 2億キロワット=2000億ワット

26兆ワットって、「すくなすぎる」かな?

次に問題なのは、

■ハヤカワ版(P262)
二〇〇八年の世界の総発電量は二十兆キロワット、そのうち日本が一兆キロワット

そんなデータはない。とゆーか、そもそも単位が間違っているのだ。
正しくは、「二〇〇八年の世界の総発電量は二十兆キロワット時、そのうち日本が一兆キロワット時」である。

キロワット時は、「ワット(仕事率)×時間」であらわされる、仕事量である。
日本の総発電量が一兆キロワット時、というのは、2008年の1年間に作った電気を【1ワット×1時間】という単位で数えたら、1000兆個あった、と言っているのだ。
なので、上記・年間の総発電量とは、出力××キロワット(日中or夜間や、季節ごとに可変)で8784時間(366日×24時間)にわたり発電したエネルギー総量のこと。それは桁もくりあがろうというもの。そもそも前2つと同列に論じるべきではない。

ちなみに、18テラワットの出力で発電し続けた場合の総発電量は:
1時間で、“18テラワット時”である。
2時間で、“36テラワット時”である。
1年間では、18テラワット×(366日×24時間)=158,112テラワット時
となる。

単位をそろえて比較してみよう。

ネーサン管轄下の年間発電量 15京8112兆ワット時
2008年の世界の年間発電量 20兆キロワット時=2京ワット時

15京ワット時は、「すくなすぎる」だろうか?

ちゃんと検証しないで、原文の内容を改竄するとか、噴飯モノである。
上記総発電量などを参照すると、世界に占める日本の発電力は5~6%だから、2012年における地球の総発電力は大雑把に4テラワット前後と考えられる。その数倍である原文の数字のままで、なんら問題はないのであった。

ひるがえって、Perrypedia等をひもといてみると、
・ダッカルカムによる銀河系=グルエルフィン間通信に必要な出力が50テラワット
・《クレストIII》の発電力18995テラワット
・《TS-コルドバ》の発電力80万テラワット
といったものすごい数字(笑)がぽろぽろ出てくる。軍事と民生等の差もあろう。しかし、1978年時点でこの話を執筆したマールは、むしろ比較的「現実的な」数字を出したと、そう考えてしかるるべきではないだろうか。

そもそものはじまりは、《バジス》の重量や形状について、訳文でわからない箇所について質問を頂いたことだった。本題にいく前に、このありさまである。いやはや。
と、いうわけで、次回は「謎の宇宙船1万隻」について考証する。

■総務省統計局:世界の統計 第6章 エネルギー 最新版(2019年時)のページ
■時事ドットコム:42年前と現在の電力事情比較 (リンク切れ)

Posted by psytoh