MS2/バリルのジレンマ

ローダン

MSの略称、脳内でミレニアム・ソルに誤変換する……(笑)
さて、ちょっと遅くなったが、3月19日(Kindle版)に開幕したミニシリーズ〈ミッション・ソル2〉。すでに4話が刊行され、8話までのタイトルが公表されている。

  1. Kai Hirdt / Ritter des Chaos / 混沌の騎士
  2. Madeleine Puljic / BARILS Botschaft / バリル教書
  3. Olaf Brill / Zielpunkt Nebelzone / 目標・霧ゾーン
  4. Hermann Ritter / Im Sphärenlabyrinth / 天体迷宮にて
  5. Bernd Perplies / Der violette Tod / 菫色の死
  6. Olaf Brill / Das Licht in der Tiefe / 深淵の光
  7. Dietmar Schmidt / Drei hoch Psi / 三のプシ乗
  8. Ben Calvin Hary / Das Gelbe Universum / 黄色宇宙
     (※全12話)

前シリーズでコスモクラートの工廠惑星エヴォラクスを大破させるにいたった責任――これ、ローダンたちが負うべきものかなあ、前混沌胞とか持ち込んだ科学者のせいだよなあ――を取らされ、さらなるお仕事を言いつけられたローダンと《ソル》。断ったときの一番蓋然性が高い未来――法付与機《新生》による《ソル》撃沈のヴィジョン――を見せられたローダンに、否やはありえなかった。
エロイン・ブリゼルによって、目標は銀河系から5800万光年の距離――タレ=シャルムからさらに故郷より遠ざかる――にあるヤホウナ銀河であることが告げられる。何万年にわたりコスモクラートの忠実な同盟者であった当地の超知性体バリルだが、最近(200年前くらいから)その信頼性が失われつつあった。バリルの有する“騎士団”――ドムラト騎士団レベル――の構成者による独走か、あるいはバリル自身が混沌へと河岸を変えたのか。それを探り出しつつ、騎士団がヤバい兵器を製造するのを阻止したい……らしい。
艦長フィー・ケリンドを失い、前混沌胞内部で150年の時間を失い、エヴォラクスに残した子供たちを失って傷ついた乗員たちにそんな余力はないと反駁するローダンやテス・クミシャだが、万が一バリルが混沌側に走っていた場合に“エヴォラクスを破壊した”前歴のある《ソル》で乗りつけた方が好都合、とにべもない。

フィー・ケリンド(Fee Kellind)は元TLDエージェントで、初登場は1997年刊行のスペーススリラー第1巻『スタービーストの挑戦』にまで遡る。本篇ではヘリオートスの堡塁の暴走によってテラニア・アラシャン地区がダ・グラウシュ銀河の惑星トリムへ転送された事件にまきこまれ、唯一稼働できた宇宙船《グッド・ホープIII》艦長となり(1914話)、まもなくローダンがシャバッザから奪回した《ソル》の艦長に就任する。
その後、時空を越える数々の遠征を経験しつつ、ほぼ300年(本人的には150年)の長きにわたり《ソル》の顔といえばフィーさんであった。まあ、本篇では2500話以降出番がなかったわけだが、非不死者組の主要キャラクターの中でも息の長い人物であった。

スカイブルーに輝く光のトンネル――未知の超光速搬送手段――も用意済み。イレギュラーな四次重層が生じぬよう、エリュシオン・ナノ量子場によって時間勾配がコヒーレントに安定化されたセクスタディム間欠フィールド……とかなんとか、よくわからない解説をされてくやしいハイパー物理学者のテスちゃん(笑)
ところが、お膳立てされて移動はらくちん……かと思ったらそんなことはなかった(爆)
搬送路の副次効果として艦体のソロニウムを“再カーライト化”しつつあることがアダとなり、《新生》に対処するため搭載した、タレ=シャルムに残された終末戦隊トライトア由来の機器を構成するリコディン複合物質が爆発する事故がたてつづけに発生。《ソル》が大爆発を起こす前にと、ローダンはポテンシャル・ランチャーによる搬送路破壊という暴挙に出た――!

ソロニウムに“エイリスを”充填してカーライトに戻す、とかいう戯言を読むにつけ、ああ、《ソル》が金色になって再登場した頃の作家、ひとりも参加してないんだっけ……と再確認させられる。《ラス・ツバイ》の装甲がプロト・エイリスに侵蝕されたのとごっちゃにしているのだな。カーライトに含有されるのは究極素だってばさ(笑)

バリルの騎士A-クアトンドは、先住種族を鏖殺しての拡張政策をとっていることが判明したトルヴァウド種族への対処の一環として、スキヴ星系を訪れていた。バリルはバランスを重んじる。マーラブ、ケフィンガ、クッスとすでに3つの種を根絶したトルヴァウドへの懲罰遠征は、本星トルヴを含めて同時に展開中だ。
A-クアトンドの騎士艦・正四面体の〈戦闘頴〉は数千機に分裂、あっけなくトルヴァウドの艦隊を蹂躙、降伏させる。名誉ある闘いをもとめるセントリファール種族の彼女としてはなんとも物足りない。
ところが、侵略艦隊の司令官の思考を読んだオービター、カルファト・ウディモルは、トルヴァウドがこれまで未知の、もうひとつの惑星に侵略艦隊を派遣していたことを看破する。処刑まぎわのわずかな記憶映像――夜空の星座を分析し、戦闘頴は判明した座標へとむかった。

セントリファールは、1800話からのトルカンダー・サイクルに登場したプランタグー銀河の好戦的種族。元々はガローン人セントリが培養した戦闘アンドロイドらしい。16名からなる氏族を構成し、クランにおける位置づけは名前のアタマにA-とかB-とかアルファベットに相当する符号によって表現される。
名誉ある戦闘、つーか。当時の表現だと、完全に弱肉強食の論理だったと思うんだが……(笑) 暗殺も横行してたし、勝てばよかろうなのだーだったはず。ともあれ、今回は、圧倒的技術力の差で抵抗すらできないスキヴ種族を根絶しようとするトルヴァウドに怒り、その艦隊を蹂躙しては、ろくに抵抗もせずに降伏したことにまた怒り(笑)
そのくせ、艦隊司令(トーロヴ)だったエリラレが、もうひとつの侵攻先惑星の情報を秘匿するために自害して果てると、案外骨があるじゃない……と、トルヴァウド種族に情状酌量の余地を与えてやれないものかといきなり方針転換するw

おなじ頃、ディウルー星系の惑星ディウルーでは、トルヴァウド艦隊トーロヴであるトルルルが連絡の途絶に困惑していた。あるトラブルから征服完了の報告が遅れていたのだが、本星はおろか、少し前に増援の要請を送ってきたスキヴ星系すら応答がない。この時点で他の騎士艦によりトルヴァウド本星含めすでに根絶されているわけだ。やがて襲来したA-クアトンドの戦闘頴を前に、トルルル麾下の部隊はやはりなすすべもない。
トルヴァウド種族に憐憫の情を抱いたA-クアトンドは、虐殺の形跡がないのをいぶかしみ、ウディモルに現地調査を並行しておこなわせていた。それによると、先住種族エルタイルは同士討ちの結果滅んだらしい。ならば、あるいは生き残ったトルヴァウドに、惑星ディウルーを居留地として与えてやることはできないか。セントリファールが逡巡したそのとき、ディウルー星系外縁で巨大な構造震動が生じ――亜鈴型の巨船が出現した。

通常空間に落下した《ソル》では多くの機器が脱落し、半死半生の状態だった。どうにか稼働する機器を動員して周囲の状況を探った結果ローダンらが目撃したのは、圧倒的な技術力の差がある三角錐艦による蹂躙だった。
よせばいいのに、“平和主義者”ローダンはこの殺戮を制止しようとする。“バリルの騎士”からの回答はにべもない拒絶。オービターとともに捕縛されたトルルルに面談しようとしていたA-クアトンドは戦闘頴に戻って邪魔者に対処しようとするが、その際の混乱に乗じて、トルルルがウディモルを殺害してしまう。
ウディモルの調査結果どおり、ディウルーの先住種族エルタイルはトルヴァウドの侵略を受ける前に内戦で滅亡したのだが、逆にその遺した地雷原のため軍を損耗したのみならず、トルルル自身が脳に傷を負い、当時の記憶を失っていた。明らかになった真実――戦闘のひとつもなく利を得たことは、トルヴァウドにとりあまりに屈辱であり、それに耐えられなかったトルルルは自害して果てる。

A-クアトンドはこれに激怒し、かつ《ソル》に責任を求める。ソラナーの搭載艇部隊とセントリファールの分割小艇部隊との戦闘は、やや《ソル》側有利に進行していたが、そこへ3隻の巨船が到来する。
直径2.5キロ、中心部が針のようになった独楽型。
涙滴状の青く輝く船。
全長2キロの菫色の転子状船。
他星系で作戦に従事していたバリルの騎士艦である。さらに〈バリルの声〉が停戦を要請する。騎士の活動を妨害した《ソル》は接収され、ソラナーは惑星ディウルーでの流刑に処すという。
「バリルはバランスを重んじる」という、セントリファールとの会話の際得られたわずかな情報をもとに、圧倒的技術格差の戦闘を見すごせなかった、バリルの使命についての詳細はA-クアトンドが説明を拒んだため承知していなかったというローダンの反駁は一定の理解が得られたらしく、亜鈴船は騎士艦に包囲され、移乗してきたセントリファールのロボット部隊に監視された状態で、バリルの騎士団の本星ケッサイラへむかう。
停戦のどさくさまぎれに、ローダンはロワ・ダントンをアルゴリアンが勝手にチューンアップしたコルヴェット《カラマル》で脱出させ、別行動をとらせる。

……というのが第1話「混沌の騎士」の概略。
続く第2話「バリル教書」でケッサイラに到着したローダンは、バリルの6騎士による審判を受けることに。

バリルの騎士団は、例えば「戦士-外交官」のように対蹠的な役割を果たす3対6名の構成員から成る。“戦士”に該当するA-クアトンドの訴えにあたり、“外交官”センマルがローダンに応接する形をとる。センマルはローダンに「バリル教書」へのアクセスを許可し、ローダンは宗教的な教えの形式をとった超知性体バリルの思想を学ぶ。

ヤホウナ銀河は、かつて超知性体ヤホウンの力の集合体であった。多様性を愛したヤホウンは、秩序ではなく混沌の側に属すものであったが、永らく平和のうちにまどろんでいた。だが、やがて秩序勢力の手はヤホウナ銀河にまで伸び、闘わざるを得なくなった。ヤホウンがいわば身を寄せていた混沌もまた、闘わぬのならば混沌自身によって滅亡の憂き目をみせると脅すのだった。
ヤホウナの種族は、彼らを愛した超知性体ヤホウンの旗のもと決起し、勇敢に戦ったが、銀河はことごとく焦土と化し、ヤホウンとともにあまねく種族は滅亡し――長いながい時ののち、荒廃したヤホウナ銀河に、新たな超知性体バリルが生まれる。
星々のあいだに生命が戻ってきたが、それはバリルにとって苦渋の決断が迫ることをも意味した。かつてヤホウナを滅ぼした秩序勢力にしたがうのか? 闘いを強いた混沌のもとへ戻るのか?
闘いをはじめるものはつねに強者と愚者である。強さなくして生きてはいけない。バリルは〈戦士〉、〈外交官〉、〈探究者〉、〈哲学者〉、〈育種家〉、〈観察者〉の6名の騎士を任命し、その〈声〉をもって、愚者を導く天秤となした……。

あっれー、信頼できる秩序の同盟者とかどっから出てきたねん、という成立史なわけだが。ローダンにしてみれば、秩序のために闘いその結果死んだ超知性体アルケティムや、おとめ座銀河団で〈第三の道〉を選んだ超知性体エスタルトゥとか、トレゴンしつつ秩序側のスパイでもあった〈それ〉とか、いろいろと心当たりがありすぎるわけで。
聖堂における審判が3対3で票が割れ、仮想現実における試練を受けることになったり、トルヴァウドに滅ぼされた種族クッスの生き残りがとある騎士にそそのかされて、連行されてきた“仇の味方”ローダンの生命を狙ったり、試練が実は『エンダーのゲーム』みたく現実と同期していることを悟ったローダンが、テス・クミシャを新たな“艦長”にした《ソル》を脱走させたり。
すったもんだあったあげく、A-クアトンドと拳をかわして和解(?)したローダンは、当面《ソル》とともにセントリファールの“オービター”として活動することに……。

第1話が「“混沌の”騎士」ってネタばれじゃないの? とか思っていたのだが、意外に背景は複雑だった(笑)
3話は別行動をとったダントン・サイドの話で、きょう発売の4話で合流するっぽい。
しかし、この状況で、どうやったら秩序勢力も納得いくエンディングを迎えるのか。はてさて。

6騎士にはそれぞれ象徴としての色が与えられていて、後続タイトルにある「菫色」も「黄色」も含まれている。
 A-クアトンドと和解(?)しても外交官センマルに危険視されて、3対3の状況は変わらないし……どうなるのかね。

Posted by psytoh