原稿を審査する編集者たち

メモ, 誤訳

先だってのクレーの回想録で出てきた“原稿審査係レクトール”について、マガンからツッコミ&考察のメールを頂戴した。原稿審査係と編集者レダクトイアっておなじもの? という。わりとおもしろかったので、自分でもちょっと確認してみた。

ペリペディアでVerlagsmitarbeiter(協力者・社員)を参照すると、LektorとRedakteur(どちらも英語に変換すると「editer」だ)、双方が複数存在する。職責の差がイマイチわからない。
他方、先月のローダン編集部ブログで編集部Who’s whoをやっていたのだが、現在のメンバーに“Lektor”の肩書きを持つ者はいない(約1名、例外アリ)。

Lektorは15世紀にラテン語のlector「読む人」「朗読者」から輸入された語で、そのあたりが学術方面で「講師」(後に外国語講師)、宗教方面で「読師」などに分化していく過程で、「出版社において、原稿を精査し、作者とともに編む」者の名称としても定着したらしい(Verlagslektor)。
一方のRedakteurは18世紀の仏語由来。元々はラテン語のredactum「受領された、引き戻された」からきているみたい。英語redactionも同根である。

さて、Lektorこと原稿審査係を、一時期わたしは単なる「校正者」かと誤解していたこともあるのだが、それだと後述のベルンハルトやシェルヴォカートが鬼軍曹のように怖れられていたことの説明にならない。
Wikipediaの「Verlagslektor」の項によれば、「原稿の選出、修正、評価をおこなう社員」とある。出版の可否をも左右する権限を有していたらしい。そりゃコワいw

校正(Korrektorat)は正書法表記になっているか、文法ミス、タイプミスはないかの修正。編集(Lektorat)は文章の改善、前後関係の齟齬の指摘、わかりづらい言い回しや同語のくりかえしの訂正、シリーズであれば設定関係の確認とか……みたいな文章もあった。
Der Unterschied zwischen Lektorat und Korrektorat

ここで、個人的にヘフトを読んできて、読者とのコンタクトページ(LKS)等で感じた、折々の“イチバン怖いヒト”を列挙してみよう。

クルト・ベルンハルト(Kurt Bernhardt)

1916年生まれ。経歴はPabel社にはじまりHeyne社を経て、ローダン開始時の肩書きはMoewig社のCheflektor。Verlagsleitungという表記もあるが、出版局長とかそのあたりに該当するのかなあ……。
余談だが、歴代《クレスト》の主計官カート・バーナードのモデルとなった人物である。
1982年退職、翌年死去。

ギュンター・M・シェルヴォカート(Günter M. Schelwokat)

1929年生まれ。戦後、進駐軍の通訳などを務め、1957年からMoewig社でRedakteur。ただし立場としては、フリーエディターだったらしい。ローダン開幕後まもなく、エディトリアル関連の作業からシェールを解放するために参画。どこかで聞いたような話……(笑)
1992年に死去するまで、実質的にローダンのChefredakteurであり指導的立場のLektorだったという。異名は〈シュトラウビングのサディスト〉。
※シュトラウビングはシェルヴォカートの居住地。

フローリアン・F・マルチン(Dr. Florian F. Marzin)

1953年生まれ。文芸学の博士号持ち。フォルツ没後編集部に入っていたホルスト・ホフマンと入れ替わる形で1987年に参加。肩書きはChefredakteurだが、時期的にシェルヴォカートとカブっている。
1995年退職(編集長は1992年まで、という記述も存在)、2000年代後半にはライヴァルであるBastei社のSF『シュテルネンファウスト』に関与していたとか。異名は〈ラシュタットの刑吏〉。
※ラシュタットはローダン編集部の所在地。

クラウス・N・フリック(Klaus N. Frick)

1963年生まれ。80年代にローダン・ファンダム界隈で名をあげて、ヘフト巻中のローダン・レポート等にも寄稿していた。1992年にLektor兼RedakteurとしてMoewig社に。1995年にマルチン博士に代わってローダンのChefredakteurとなる。2000年からはVPMのSF・ファンタジー部門全体の総編集長的立場となる。

上記以外にも、ホフマンを編集部に招いた当時のCheflektorミュラー=レイマンや、現在VPMの常務取締役であるフックスとか、ペリペを見ると名前が挙がるが、シリーズにどのように関わっていたのかは詳しいところはわからない。おなじ肩書きでも、部門違い、プロジェクト違いだったりして並列して存在可能っぽいためだ。

ちょっと話は変わるが、現在のローダンの出版元、VPMことPabel-Moewig-Verlagは、元々はErich-Pabel-VerlagとArthur-Moewig-Verlagが母体となっている。80年代に地場の出版社連合(Verlagsunion)と合併してVPM Verlagsunion Pabel Moewigとなり、その後再編があって現行の社名となった(略称はそのまま)わけだが、その実態は様々な部門(印刷とか輸送とか)が独立採算の子会社みたいに分立したグループ会社である。
アーカイヴに残っている社史等まとめてみようとして、難物なため中絶しているのだが、それはさておき、旧Pabel系、旧Moewig系の会社なんかも残っていそうだ。それぞれが編集者にあたる存在をRedakteur、Lektorと呼んでいた可能性もなきにしもあらず。ただ、フリックがなあ(笑)
2006年にMoewig Buch-Verlagが書籍刊行プログラムを停止(後ライセンス契約の形でグループ外会社へ委託)しているので、現在は旧Pabel系の用語のみ残った……と考えるのは、まあ、妄想の類ではある。

2020年現在、VPMのほとんどの部門は親会社Bauerの意向でラシュタットから移転し、残っているのはローダン編集部と子会社のVPM印刷所だけらしい。Lektoratは別部門として引っ越してしまったと考える方が正しい気もする。

で、結局、Lektorってなんて訳すの? という話だが。
Redakteurの語源を調べていたとき、“ひとつのユニットに組み直す(組み上げる)”というものがあった。したがって、作家と情報を共有し、スケジュールを組み、編集部内に業務を分配し、ヘフトシリーズを組み立てるという意味では、Redakteurが「編集者」であることはまちがいない。Lektorは原稿を読み、質を判断し修正する点はともかく、出版の可否の判断とか、出版局幹部(Verlagsleitung)の範疇だし。
前述の考察の中でマガンが、旧Moewig社内に「原稿審査部(Lektorat)」なる部署があったと仮定ししたら、ベルンハルトの肩書きCheflektorは原稿審査部長あたりが正しいことになるねえと書いている。
うん、もうそれでいいや(爆)

Posted by psytoh