時間超越 -5-

ハヤカワ版, 誤訳

そろそろまたマンネリ化しつつある「時間超越」誤訳ツアー。うーん、ガソリンが欲しいところよのぅ。
とはいえ、さいわい5章は短いので1回で済む。6章はさらに短か……あれ? やだ、なにこれ……。
ろ、6章はまた後日っwww

■201p

ハヤカワ版:
 アラスカは緊張を解き……驚いた。最初はそれがなにかわからない。しばらくしてから、スパイスの匂いを嗅いだのだと、やっと認識する。
原文:
Alaska lag völlig entspannt da und wunderte sich, daß er irgend etwas wahrnehmen konnte. Das erste, was seine Sinne ihm übermittelten, war ein sehr realer Gruch nach Gewürzen.

試訳:
 アラスカはすっかり脱力して横たわっていた。まだ何かを知覚しうることに驚く。五感が最初に伝えてきたものは、すこぶるリアルな草の香りだった。

スパイスの匂い……アラスカはどっかの厨房に出現したのか? と思いたくなる。しかし、これ、誤訳というわけではない。Gewürz は確かに「薬味、香料、調味料(スパイス)」なのだ。
ただし、もう少し調べてみると、元々は「味を調えるため、つぶして、あるいはまるごとをスパイスに混合する植物」(Wiktionary〔独〕から引用、訳は西塔)らしい。というわけで、今回はうちの方が超訳してみたのである(笑)

■202p

ハヤカワ版:
 どこかの惑星なのはたしかだ。
原文:
Er befand sich auf einem Planeten!

試訳:
 かれはどこかの惑星にいた!

原文はエクスクラメーションマーク付きの上、イタリックである(笑) 斜字体なのは、201pの「どこに出たのだろうか?」もそうだが、こちらは主語が ich なので、むしろカッコでくくって心の声にするたぐい。地の文でイタリックなのだから、作者が強調したい箇所と判断したい。というか、するでしょ普通。
ブラックホールを抜けて、どこに出るのか――そもそも、もとの次元にもどれるのか、と危ぶまれたのが、なんと普通の(?)惑星じゃないか、ということ。で、この文をこうすると、いきおい次の段落も変わってくる。

ハヤカワ版:
 だが、夜空にきらめく星座は、これまで見たことがない。衛星らしい天体が五つある。
原文:
Über ihm flimmerten unbekannte Sternbilder. Es war Nacht. Am Himmel standen fünf kleine Monde.

試訳:
 はるか上できらめいているのは、見知らぬ星座であった。夜空には、小さな月が五つ。

なんで惑星とわかったかというと、夜の星空が見えたから、というしだい。あと、訳者さん、Mond(e)を片っ端から「衛星」と訳しているが、それ、ちょっと寂しくないかしらん。ムーンとサテライトの区別を、たまにはつけた方が……。

ハヤカワ版:
なにが起こったのか? どうやら、未知の力が作用して、ここに連れてこられたらしい。
原文:
Für alles, was geschah, gab es eine Erklärung. Eine unbekannte Macht hatte von ihm Besitz ergriffen und ihn hierher gebracht.

試訳:
起きたことすべてに対する説明はひとつ。未知の力がアラスカをのっとり、ここへ連れてきたのだ。

前の訳文、was geschah しか残っていない。削りすぎだろw

ハヤカワ版:
 緊張して、耳をかたむける。
原文:
Alaska lauschte angestrengt,

試訳:
 一心不乱に耳をすましたが、

うーん、angestrengt は、今回は「緊張して、」のほうがいいな……。ただ、「耳をかたむける」だと対象がはっきりしてそうな印象があるので、「すました」方がよさそう。風のさざめきに耳をかたむけたわけではなくて、何か手がかりになるものが聞こえないか耳をすました、と書くとわかりやすいだろうか。

ハヤカワ版:
 左側の地面に、大きなくらい穴がある……いや、ふつうの穴ではない。あたりは衛星の光で、比較的に明るいにもかからわず、穴の側面が見えないのだ。ただぽっかり開いた穴……あるいは、だれかが置き去りにした黒い円盤のようでもある。
原文:
Links neben ihm war eine große dunkle Öffnung im Boden. Alaska ahnte, daß es keine gewöhnliche Grube war, denn trotz des verhältnismäßig helln Lichts, das von den Monden ausging, konnte er keine Wände erkennen. Die Öffnung sah eher wie ein herausgestanztes Loch aus, oder wie eine schwarze Scheibe, die jemand hier niedergelegt hatte.

試訳:
 左側の地面に、大きな暗い穴があった。ふつうの縦坑でないことはすぐ知れた。五つの月のもたらす比較的明るい光にもかかわらず、穴の側壁が見えないのだ。まるで地表を“型抜き”したか、誰かが置きざりにした黒い円板であるかのように。

ここは誤訳ではない。「ぽっかり開いた」の検証だ。
形容詞 herausgestanzt は動詞 herausstanzen の過去分詞で――といくところだが、残念ながら辞書に未掲載の単語である。Wiktionary等にもまだ収録されていない。ググってみたところ、シェイバーの刃がウルトラシャープである理由として、herausgestanzt じゃなくて herausgeätzt なんだよ、という類の記事がみつかったので、“型抜き”じゃなくて“エッチング”処理なのだ、と判断。
また、heraus は「中から外へ~」の接頭辞、動詞 stanzen は「くりぬく」であることから、地表を「下から上へ」くりぬいたイメージ(2D的)が導き出されるが……この表現、めんどくせえ(爆) あえてするなら、「地表を裏から型抜き」とかそういう描写になるのだろうが、それくらいなら、「ぽっかり開いた」がシンプルで吉、なんだろか。でも、単に「開いた」だと、内壁ないのが説明ついてないんだよなぁ。

以下余談:五十嵐さん、三点リーダー好きにいっそう拍車がかかってるなあ。ハイフンも「……」、カンマも「……」、文章をつなげるときも「……」。もはや偏愛でしょw

ハヤカワ版:
 穴の近くには、気味の悪い彫像があった。
原文:
Rund um die merkwürdige Grube standen große Statuen.

試訳:
 ふしぎな縦坑をとりまくように、巨大な彫像群がそびえていた。

「気味が悪い」のは、直後の文章で身震いしているからだろうけど。原文で、あえて「気味が悪い」と訳すなら、merkwürdige と形容されている穴の方じゃないかな。
それはともかく、ここで「彫像群」と訳したのは、むろん原文が複数であるからなのがひとつ。それと、ハヤカワ版でここ以降、どうも彫像が1個しかなさそうな箇所が散見されるから。

ハヤカワ版:
かつて、どこかで似たような構造物と出会ったことがある。
原文:
er war sicher, daß er ähnliche Gebilde bereits irgendwo gesehen hatte.

試訳:
かつて、どこかで似たような建造物を見たことがあるはずだ。

まちがいというか、「見た」と「出会った」は、かならずしもイコールじゃないからなあ。これについては、後の該当箇所でまたとりあげる。

ハヤカワ版:
旧南アメリカ連合国家のボリビア
原文:
Dort, im ehemaligen südamerikanischen Bundesstaat Bolivien,

試訳:
旧南米ボリビア州(のティワナク)

Bundesstaat は、ローダン・シリーズの場合、「テラ政府統治下にある州」を意味する。
うわ、知らんかったw 旧西ブロックにそんな内訳あるとは聞いたことないし、すなおに訳すと「旧南米のボリビア連邦(または連邦を構成する「州」)」になっちゃうし、ボリビアが連邦制(または州)だったことないしなぁ、とちまちま検索してたら、遭遇した思わぬ事実(笑) まあ、試訳だとそういう混乱をまねきそうだから、「旧南米のボリビア」でいいのかも。

あと、ボリビアの原語、語尾が -ien になっているのは、ドイツ語での国名等の特徴。アジアが Asien とかね。Derogwanien も、そんなわけでrlmdi.ではすべてデログヴァニアとしてきた。惑星名との判断だろうからしょうがないけど、こっちのが語呂いいんだもん。

余談1:ボリビアの正式名称は、2009年から「ボリビア多民族国」であるそうだ。すわ、その前が連邦か!と思ったが、やはり「ボリビア共和国」だった(笑)
余談2:Tiahuanaco は、以前 PrivateCosmos 用に訳したときも「ティアワナコ」としたが、近年では「ティワナク」に統一する方向にあるらしい。別に誤訳ではない。

■203p

ハヤカワ版:
 シェーデレーアはそこに、石のカレンダーを見にいったのだ。
原文:
Alaska erinnerte sich, daß man in Tiahuanaco einen steinernen Kalender gefunden hatte,

試訳:
 そこで石のカレンダーが発見されたことをアラスカは思い出した。

見にいったではないし、かつ発見したのは、不特定の man である。

ハヤカワ版:
 ティアワナコは地球最古の都市とみなされてきたが、その建設時期は現代でもはっきり特定されていない……だれが住んでいたのかも。そこで、さまざまなスペキュレーションが生まれたもの。たとえば、建設者は地球外の知性体だとする説もあった……。
原文:
Tiahuanaco galt als die älteste Stadt der Erde. Niemand hatte bisher exakt bestimmen können, wann sie erbaut worden war und wer in ihren Mauern gewohnt hatte. Immer wieder war es zu Spekulationen gekommen, ob die Erbauer von Tiahuanaco vielleicht Wesen aus dem Weltraum waren.

試訳:
 ティワナクは地球最古の都市とみなされてきた。いつ建造され、その城壁内にだれが住んでいたものか、これまでのところ、はっきり特定されていない。建造者は宇宙から飛来したのではないかとの憶測が、しばしば取沙汰されたものだ。

スペキュレーションなんて言って通じるのは一部のSF者だけだろう(笑) あと、これはわたしルールだが、地球外生命体という訳語は、基本、Außerirdischer (文字通り、「地球の外の存在」)に対応して用いている。ルールに執着するのはばからしいが、それぞれの単語にそれなりの対応訳があると思うのだ。
それにしても、ティワナク成立は、12000年前とか4000万年前とか、よくまあそれだけ異説があるものだ。ああ、でも12000年前だと、レムールより近代になっちゃうのか(笑)

ハヤカワ版:
 四つん這いになって、穴に近づいた。もう彫像には注意をはらわない。縁にたどりつくと、
原文:
Alaska wälzte sich herum. Auf Händen und Knien kroch er zwischen den Statuen hindurch bis zum Rand der seltsamen Grube.

試訳:
 アラスカはごろりと転がって四つん這いになると、彫像群のあいだを抜けて奇妙な穴の縁まで這い進んだ。

あおむけにねそべっている状態から、ぐるんとまわった形。まあ、うつぶせになる前に四つん這いになるだろうし、この説明文は少々冗長かもしれない。
上で書いた、「彫像が1個しかない」というのは、このあたりから。注意をはらわないのは訳者さんの勝手だが、何度も出てくるぞ(笑)

ハヤカワ版:
 手に異常はない。もう一度、ゆっくり伸ばすと、穴の上に出たとたん、前腕部が消えるとわかった。
 この開口部の上では、光の屈折がおかしくなるようだ。
原文:
Das Phänomen ließ sich nur schwer erklären, auf jeden Fall hätte sein Unterarm so dicht unter der Grubenoberfläche noch sichtbar bleiben müssen.
Offenbar herrschten in der Öffnung besondere Lichtverhältnisse.

試訳:
 この現象は説明が困難だ。とにかく地表部からちょっと入ったあたりまでは、前腕部が見えていなければおかしい。
 明らかに、開口部のなかでは光の挙動が変だった。

穴の上じゃなくて、入口というか、地表面を超えるなりすっぱり消えてしまうわけだ。

■204p

ハヤカワ版:
 こんどは片脚を下ろしてみる。太腿まで見えなくなったが、足が存在しているのはたしかだ。
原文:
Alaska drehte sich um und streckte einen Fuß in die dunkle Grube. Der Fuß wurde unsichtbar, hörte einfach auf zu existieren.

試訳:
 こんどは前後をいれかえて、暗い縦坑に足をのばしてみた。存在するのをやめたみたいに、足がおもむろに見えなくなる。

座った、という描写がないから、たぶんまだ四つん這いのまま、後ろざまに脚をのばしているようだ。で、足(Fuß)が消えている。ん……太腿って、なに?(笑)

ハヤカワ版:
 柱の列が穴と彫像をかこみ、なだらかな丘の中腹につづいている。丘の麓には都市が見えた……いや、町といったほうがいいか。ちいさな固定式の家が、軒をつらねているほか、ほっそりとした尖塔が数ダースある。そこにつづく細い道の両側には、無数の光が揺れていた。明らかに松明だ。
原文:
Die Grube mit den sie umgebenden Statuen und Säulen lag an einem Hang. Tief unter sich sah Alaska eine Stadt. Sie bestand aus unzähligen eng beieinander stehenden Häusern und einigen Dutzenden schlanker Türme. In den schmalen Gassen brannten Tausende von Lichtern, offenbar Fackeln.

試訳:
 彫像群と列柱に囲まれた縦坑は、山腹の斜面にあった。はるか下方にアラスカは都市をみつけた。みっしり立ちならぶ無数の家と数ダースの尖塔。狭い路地には幾千の光が揺らいでいる。明らかに松明だ。

位置関係がメタメタである。環状列石(彫像まじり)のイメージは湧かないか。ごみごみした街の裏路地のイメージは浮かばないか。ま、ローダンだと都市、という表現がまず出てくるのは当然といえるが、なに、その付けたりみたいな訂正w あと、なんだい、固定式の家って。
なお、丘とその麓、と訳文にあるが、原文は「斜面」と「ずっと下方」というだけでなく、さらに後になると、街があるのは「谷」である。戻れー、戻って直せー(爆)

ハヤカワ版:
 都市の内部にも、同じような道が縦横に伸びている。マスクの男はそれを見つめた。
原文:
Von dem Platz, an dem Saedelaere stand, führte ein verschlungener Pfad zur Stadt hinab.

試訳:
 シェーデレーアのいる場所からは、曲がりくねった小径が都市までつづいている。

うーん、なんかこの行まで一切合財含めて、16パズルでもやった? おなじ文章に思えないんだけどなあ。ちなみに、うちの原書第3版だが。コピーは何版のやつ使ってるんだろ。まあ、3章の「べつの男が叫ぶ」みたいに、おそらくは電子データ化する際のごみならともかく、重版時にこんな直しはありえないけどね。

ハヤカワ版:
 奇妙なことに、どこにも住人の姿がない。
原文:
Weder auf diesem Weg noch in den Straßen der Stadt vermochte Alaska ein lebendes Wesen auszumachen.

試訳:
 その径にも、都市の通りにも、アラスカは生者の姿を見出すことができなかった。

あ、みつめてるの、この行に入ってからか! どうなってんだ、このパズル。
動詞 ausmachen は、外に(aus)する(machen)で、「取り出す」など多くの意味をもつが、そのなかに「みつける」もある。

ハヤカワ版:
高度な技術文明が存在しないのはわかるが、住人の気配がないのは奇妙だ……
シェーデレーアはふいに“人形の家”を思い浮かべた。理由はわからないが、この都市そのものが“人形の家”だと感じたのである。不合理で、非論理的だが、それは確信に近かった。
原文:
Nirdends gab es Anhaltspunkt für eine technische Zivilisation, auf unerklärliche Weise erinnerte die Stadt Alaska an ein zu groß geratenes Puppenhaus. Der Vergleich war absurd, aber er drängte sich Alaska geradezu auf.

試訳:
技術文明をしめすものはどこにも見あたらない。どういうわけか、この都市はアラスカに、巨大化したドールハウスを思わせた。ばかげた比喩だが、アラスカの脳裏をはなれなかった。

直訳すると、「でっかくなりすぎたドールハウスを思い出させた。ばかげた比喩だが、それはアラスカにまっすぐ押しよせてきた。」くらいかな。思い出す、だと、アラスカが巨大化したドールハウスを以前に知っていそうなので(笑)、連想する、思わせる、程度で。
Puppenhaus は、あとで「玩具」という表現も出てくるし、普通に不特定商品名・ドールハウスでいいんじゃない?

ハヤカワ版:
 丘の上に目を転じると、小屋がある。倒壊しかかったあばら屋だ。窓の奥に動きはなく、明かりもついていない。
原文:
Er blickte den Hang hinauf und sah weiter oben, fast auf der Höhe, eine baufällige Hütte. Ihre Fenster, sofern sie solche überhaupt besaß, waren nicht beleuchtet.

試訳:
 斜面上方へ目を転じると、ほとんど頂上近くに、倒壊しかかった小屋が見えた。そもそも窓があるとしてだが、明かりは灯されていなかった。

ここでも「斜面」「頂上」というキーワードが出てくるのに、そのまま「丘」でつっぱしっている。また、ずっと上のほうなので、夜でもあり、窓があるかは、よくわかんないのだ。

■205p

ハヤカワ版:
 この周辺を調べてみるか、丘を下りておかしな都市を訪れるか……あるいは、あの小屋をのぞいてみるか。
 いずれも、危険はなさそうである。
原文: Seine unmittelbare Umgebung war nicht weniger unheimlich als die Stadt unten im Tal oder die Hütte, die weiter oben am Hang klebte.
Wenn es zwichen den drei markanten Plätzen einen Zusammenhang gab, war er sicher nicht leicht zu erkennen.

試訳:
 この周囲とて、谷間の都市や、斜面上方のあばら家と負けず劣らずの怪しさだ。
 これら三ヵ所に何らかのつながりがあるかは、そうやすやすとはわかるまい。

まあ、危険とは言っていないよな……ぶきみ(unheimlich)ってだけで(笑)

ハヤカワ版:
 彫像の一方に近づき、手で触れてみた。予想に反して、堅牢な石でできている。
原文:
Alaska betastete eine der Statuen. Wie er vermutet hatte, bestand sie aus festem Stein.

試訳:
 アラスカは彫像のひとつに触れてみた。思ったとおり、硬い石でできている。

……。ここで初めて彫像が2つに、と書こうと思ったのだが。なんで、アラスカの読みがはずれたことにwww

ハヤカワ版:
 しかし、動きがある。ゆがんだ建物のなかには、たしかに住人が住んでいるようだ。しかし、アラスカには、やはりこれが機械じかけのように見えた。理由はわからないが、いきなり“スイッチがはいった”ような感じなのだ。
原文:
Es war nicht die Stille einer nächtlichen Stadt. Das Leben in diesen windschiefen Gebäuden schien mit einem Schlag erloschen zu sein, es war – wieder drängte sich der Begriff in Alaskas Gedanken – ausgeschaltet!

試訳:
 しかし、夜の街の静けさではない。風にあおられる建物のなかの生命が、一瞬でかき消えたような――またアラスカの脳裏にことばが浮かぶ――まるで“スイッチを切られた”みたいに!

だから、逆だ、逆。どうしてこうなるのかなあ。わざと逆いってるとしか思えんぞ、こうつづくと。動詞 ausschalten は、よくローダンだと「始末する、殺す」だ、と言っているが、今回については大元の意味どおり。スイッチ(Schalter)を終了(aus)である。

■206p

ハヤカワ版:
 なにか秘密のシグナルを受信して、唐突によみがえったといえばいいか。
原文:
Das Stadt macht den Eindruck, als würde sie auf ein geheimes Signal hin schlagartig wieder zum Leben erwachen.

試訳:
 都市はなんだか、秘密のシグナルでたちどころに生命にめざめそうな印象をあたえた。

ここは、前のとこを訂正したのにあわせると、こうなる。

ハヤカワ版:
 巨大なおもちゃだ! すくなくとも、テラナーにはそう見えた。
原文:
Ein Riesenspielzeug! dachte der Terraner fröstelnd.

試訳:
 巨人のおもちゃだ! テラナーは凍えるここちがした。

巨大、であってるんだけどね。寒気がした、とわりおっかない想像になったらしいので。

ハヤカワ版:
 かぶりを振り、また地面の穴に注意をもどす。
 彫像のあいだに、はだかの異人が横たわっていた。
原文:
Alaska begann die Öffenung im Boden zu umkreisen.
Nach ein paar Schritten fand er zwischen den Statuen einen nackten Fremden.

試訳:
 アラスカは穴の周囲をまわってみることにした。
 数歩進んだところで、彫像のあいだに、はだかの異人をみつけた。

なんか意味がぜんぜんちがうんだよなあ。「異人」が突然あらわれたみたいになってる。アラスカが位置を変えたから、陰になっていたのが視界にはいったわけだ。
横たわっていた、は別にかまわないけれど。読者はある程度、それが“意識ある夢”中のカリブソ本体だと予想はつくだろうし。でも、原文ママの方が、いま寝てるか起きてるかわかんなくてドキドキするんじゃないかねえ。

……。
相変わらず、スバラシイネ。
6章は、どうやって掲載するか、ちょっと考えるので、少し間が空くかも。

Posted by psytoh