そしてシリーズは続く……

ドイツSF, 作家情報

ふとバスタイのサイトを覗いてみたところ、話数がえらく進行していた。

John Sinclair
1600. Jason Dark / Willkommen im Hades / ハーデスへようこそ
(2009/03/10刊行)

Professor Zamorra:
900. Volker Krämer / Der Magier / 魔術師
(2008/11/25刊行)

手元のファイルを見ると、シンクレアのタイトルはちょうど3年前から更新していなかった。ジョン・シンクレア(rlmdi.での通称は「じょんじょん」)は、だいぶ以前のd-infoでも紹介しているが、スコットランドヤードの心霊捜査官(をひ)である主人公シンクレアが幽霊妖魔悪魔吸血鬼ゾンビーエトセトラの引き起こす事件を解決する……と書くとすっごくおもしろくなさそうであるが、とにかく週刊で延々とつづいてるホラー・シリーズなんである。
Sinclairの語源は「光り輝くもの」ないし「聖別されしもの」で、実際シリーズの進行につれ、ジョンは「光の子」の転生の最後のひとりであるとかいう設定がついてくるが、バスタイ社の紹介を見ているかぎり、たいていのお話はそこまでビッグな設定とは関係なさそうなもの(たまにギャグとしか思えないタイトルも)が続いている。
にしても、作者Jason Darkはたったひとりで、週刊1600話突破である。これ以外にも薄手のペーパーバック版も毎月出ているわけで……某豹頭なシリーズの作者よりも筆が早いんではなかろーか。

一方のザモラ教授。隔週刊行のやや厚手、平綴じのヘフト・シリーズで、ドイツ版Wikipediaによるとダーク・ファンタジーにジャンル分けされるが、多分にSF要素も含まれている。悪魔や魔法使いの他に、舞台は宇宙や過去・未来にまで広がりを見せる。
実は今回、バックナンバーを調べようとして驚いた。シリーズの中興の祖とも言える作家ヴェルナー・クルト・ギーザ(Werner Kurt Giesa)が昨年2月に亡くなっていたのだ。
1977年から携わっていた……というか、元々共同ペンネームのロベルト・ラモント名義の複数作家制だったザモラを、400話前後から10年近く、ただひとりで背負って立っていた(現時点でシリーズの1/3はかれの手になる)ギーザだが、2003年に事故のため瀕死の重傷を負い、長期の入院生活を余儀なくされたうえ後遺症に悩まされたことから、もっぱら草案作業に専心(2007年末まで)せざるを得なくなった。また、編集その他でいわば共同製作者でもあった妻が2005年に亡くなったことも執筆意欲の減退に拍車をかけたらしい。
ギーザの作品はこれまで邦訳は存在しない。その大半がヘフト小説であるからいたしかたないのだが、ローダン惑星小説に作品があったり、ファンタジー小説MYTHORの後期プロット作家であったり、クルト・ブラント没後に再評価されたレン・ダークの新シリーズで執筆していたり、過去d-infoで紹介した「PS-ジム」「トラッカー・キング」にも参加しているなど、活躍の場は多岐にわたっている。
享年53歳。その早逝が惜しまれる。いつか機会をみつけて、かれの業績を再確認してみたい。

■Bastei社のホラー作品ページ

※3/14 ギーザの健康問題につき訂正。複数のサイトで「罹病(erkranken)」という表現が用いられているが、ギーザ自身の叙述によると「失血が多すぎて死にかけた」というから、事故が主たる原因と推察した。

Posted by psytoh