ドイツSF大賞2019受賞作発表

ドイツSF

9月1日付けのDSFP公式サイトにて、本年のドイツSF大賞受賞作が公表された。
既報のとおり、授賞式は11月2日にドレスデンで開催されるペンタコン(SFCDの年次大会)にて執り行われる。

受賞作は以下のとおり:

長編部門 Bester deutschsprachiger Roman:

1. Tom Hillenbrand / Hologrammatica / ホログラマティカ

 2. Andreas Eschbach / NSA / NSA – 国家安全保障局
 3. Julia von Loucadou / Die Hochhausspringerin / 摩天楼ジャンパー
 4. Andreas Brandhorst / Die Tiefe der Zeit / 時の深淵
 5. Dirk van den Boom / Canopus / カノープス(冷たい戦争1)
 6. Dirk van den Boom / Varianz / 分散 (《サイズ》の旅路2)
 7. Robert Corvus / Das Imago-Projekt / イマーゴ計画
 8. Sebastian Schaefer / Der letzte Kolonist / 最後の植民者
 9. Willi Hetze / Die Schwärmer / 群人
10. Annika Scheffel / Hier ist es schön / 美しきこの世界
11. Christian Torkler / Der Platz an der Sonne / 太陽に近い場所
12. Ben Calvin Hary / Koshkin und die Kommunisten aus dem Kosmos
    / コシュキンと宇宙からきた共産主義者たち

受賞作『ホログラマティカ』の作者トム・ヒレンブラントは、『ドローンランド』(河出書房、訳者は元ローダン翻訳チームの赤坂桃子氏)で本邦にも紹介済み。元々は経済ジャーナリストで、主としてシュピーゲル・オンラインに寄稿していた。2011年からフリーの作家となり、処女作『悪魔の果実』を発表。ルクセンブルク人のコック、ザビエル・キーファーを主人公としたこのミステリ・シリーズは現在6巻まで継続中。2014年に刊行された『ドローンランド』はSF分野ではクルト・ラスヴィッツ賞を、ミステリ分野ではフリードリヒ・グラウザー賞を獲得するベストセラーとなった。
本作『ホログラマティカ』は21世紀末を舞台とする近未来スリラー。主人公であるロンドン出身のガラハド・シングは会計官(Quästor)とあるが、なぜか仕事は失踪人の捜索だ(笑) 気象の変動によって大規模な人口の流動が生じ、なおかつ技術の進歩が生み出したホロネットやマインド・アップローディングによって素性をいつわることが容易となり、行方知れずになる人間にはことかかない。今回の捜索対象はジュリエット・ペロッテ、人間を別の肉体へと載せ替えることすら可能とするデジタル脳〈コギト〉の暗号化を担当していたコンピュータのエキスパートである。彼女を“誘拐”したとおぼしきプログラマーの足跡をたどるにつれ、シングは、相手が“人間ではないのでは”という疑惑にとらわれていく……。
出版社の紹介記事には“高度に発達した人工知能が世界の問題を解決しうるようになったとき、人間はその制御を手ばなせるのか”とある。『ドローンランド』は、温暖化による海面上昇で水没しかかった近未来のブリュッセルを舞台にしたことを除けば、ごくまっとうな(という表現が妥当かはともかく)犯罪小説だったが、こちらはどうだろうか。

短編部門 Beste deutschsprachige Kurzgeschichte:

1. Thorsten Küper / Confinement / 隔離

 2. Andreas G. Meyer / Kill! / 殺れ!
 3. Tetiana Trofusha / Coming Home / カミング・ホーム
 4. Nadja Neufeldt / Im Regen / 雨の中
 5. Galax Acheronian / Trolltrupp / 豚部隊
 6. C. M. Dyrnberg / Intervention / 介入
 7. Nele Sickel / Muse 5.0 / 美神ミューズ5.0
 8. Uwe Post / Kurz vor Pi / パイの少し前
 9. Jutta Siebert / Die Schwimmerin / 泳ぐ女
10. Rico Gehrke / Rauschen / ノイズ
11. Tobias Reckermann / Der unbekannte Planet / 未知の惑星

トルステン・キューパーの「隔離」は、ラスヴィッツ賞に続く栄冠である。いまなんとなしに、ごやてんで検索したら、わりと頻繁に短編部門でノミネートされているのだった。
内容については、ラスヴィッツ受賞作の記事を参照いただきたい。あ、あとdinfoにもネタ提供したっけか。

■ドイツSF大賞公式サイト:www.dsfp.de

Posted by psytoh