ローダン・ヘフトのストーリー

38. アトプ法廷 / Das Atopische Tribunal

2700話ー2799話 / 新銀河暦1514-1517年
銀河系、〈テクノムーン〉、〈全所の都市〉、そしてラルハトーン銀河にて

主な登場人物

  • ペリー・ローダン……テラナーは身に覚えのない“未来の犯罪”で断罪される
  • レジナルド・ブル……生還のため、テラナーは活性装置に不本意な調整を受ける
  • ボスティクI世、〈アダウレスト〉……ローダンと並ぶ〈銀河系の劫火〉の“実行犯”
  • ヴェトリス=モラウド……銀河系テフローダーの〈新タマニウム〉の元首タマロン
  • サタフォル、ラン・メオタ、トイオ・ジンデル……テフローダー・ミュータント
  • ヴィッコール・ブガシドフ……過去の遺跡を追い求める大富豪
  • ファリエ・セフェロア……ブガシドフの船《クルーゼンシュタイン》パイロット、ローダンの孫娘
  • アッティラ・レッコル……TLD長官はトライトア種族からの転向者だった
  • トウフェク……魔神パズスを使う謎の男
  • シェクヴァル・ゲネリク……〈テクノムーン〉から出現したオンリョン人艦隊司令官
  • クヴ、マタン=アダル、サエカエル……アトプの裁判官
  • アヴェストリィ=パシク……アトプの監獄惑星に収監されたラール人

ストーリー

アノマリーからのソル系逆転送には大きなタイムラグが生じた。それが元のポジションに復帰したのは33年後、新銀河暦1503年のこと――そして、なんらかの理由でルナだけがさらに9年を経過した1512年に帰還した。だが、その表面は未知の技術機器に覆われ、未知のバリア〈リパルサー・ウォール〉に包まれ隔絶された世界〈テクノムーン〉として。

新銀河暦1514年、イーストサイドで稼働に問題が生じたポリポート駅《イタフォル=5》をめぐり、テフローダー難民国家を統合した〈新タマニウム〉とブルー族の間で緊張が高まりつつある頃、地球では極秘開発された新型超光速エンジン搭載宇宙船《スターダイヴァー》が打ち上げられた。ペリー・ローダン指揮のもと、テクノムーンの謎を解き明かすため。
時をおなじくして、イーストサイドの対立調停のため進発した75隻の艦艇が、テクノムーンから出現したオンリョン人の艦がはなったリニア魚雷によって壊滅。〈アトプ法廷〉の命をうけやってきたというオンリョン人は、“GA-ヨマアドの劫火エクピュロシス をひきおこす大罪人”としてペリー・ローダンとボスティクの引き渡しを要求する。
テクノムーンに到達したローダンは、現地では逆転送開始からすでに100年以上が経過しており、オンリョン人の支配下、アトプ法廷の拠点と化していることを知る。オンリョン人への抵抗運動と接触し、ルナを脱出したローダンは、先般、彼との会談のためソル系に来訪していた大富豪ヴィッコール・ブガシドフの箱状船《クルーゼンシュタイン》に救助され、ソル系から逃亡する。

テクノムーンの事例からわかるとおり、アトプ法廷の勢力はすでに銀河系各所に浸透していた。ソル星系はルナが遷移して移動したすきにテラノヴァ・バリアを展開して一息つけたが、アルコン星系はクリスタル・バリアをアトプの裁判官クヴの船に突破され陥落する。アンドロメダのポリポート網を調査中のところ急を知り帰還した《ジュール・ヴェルヌ》は乗員に擬態した形態変容種族ジャジュに毒をもられ、半ば行動不能のまま、オンリョン人による接収を逃れるため、乗員を退去させた後ブラックホールへ墜落する。奇跡的に生き残ったレジナルド・ブルは、謎のロボット、クイックシルバーによって〈全所の都市〉へいざなわれる。
また、新タマニウムの支配者ヴェトリス=モラウドは、細胞活性装置を代価にオンリョン人と同盟を結び、その意にそって活動を展開。そのミュータント部隊〈フォー・コンクァラーズ〉は、亡命したボスティク皇帝を拉致すべくテラに潜入。護衛にあたっていたロナルド・テケナーを殺害した。捕縛されたボスティクを人質に、ローダンも出頭を余儀なくされる。

テラにあらわれたアトプの裁判官マタン・アダルによって、ローダンとボスティク、そして所在不明の3人目の“主犯格”カーディナル・フラクター〈アダウレスト〉の裁判が開廷される。彼らは不特定の未来に、GA-ヨマアド――銀河系に〈劫火〉と呼ばれる災害をひきおこし、アトプの秩序オルドに甚大な損害を招くという。
証人として出廷したのは、ジュリアン・ティフラー! パラロクス武器庫の“時の槍”を数百万年さまよい、人格すら変質したテラナーは、以降銀河系の表舞台から姿を消して久しかった。彼は、人里をはなれ旧〈アルケティムの城〉である惑星オアゴニルに滞在した際、かの地から見はるかした未来に〈劫火〉を見た、と確かに証言した。
マタン・アダルがローダン、ボスティク両名に下した判決は、500年の禁固刑であった。
以後、銀河系は裁判官マタン・アダルとクヴにより、アトプの秩序に沿った“改革”が進行する。主要惑星に意志ある法大全たる〈オルドの碑〉が設置され、また裁判官クヴの座となったアルコン星系では、5年以内に本来の居住者ナート人に明け渡しアルコン人は退去すべし、との指示が下され騒然となる。

テラニアのスタータック・クリニックでは、リパルサー・ウォール突破に失敗してから2年あまり昏睡状態にあったグッキーがすべての超能力をうしなってめざめていた。ただひとつの新たな能力……〈プシ泥棒〉として。超能力者に触れると、その生命エネルギーのすべてと能力を奪い、結果的に殺してしまう。いくつかの超能力を”盗んで“しまったことに苦悩しつつも、イルトは攫われた友を救うべく協力者を求め、ブガシドフと、そのパイロットにしてローダンの孫娘ファリエ・セフェロアにたどりつく。
テフローダーのばら撒いたポスビに嫌テラ性向を引き起こすウィルスの蔓延や、詳細不明の組織〈テクノ・マハディ〉の暗躍など、想定外の障害は多い。さかし、イホ・トロトや、ボスティク拉致の際に重傷を負ってとらえられたテフローダー・ミュータント、トイオ・ジンデルらの力も借り、《クルーゼンシュタイン》の持つポスビ暗黒惑星のデータや、ジャジュ艦から奪取したデータで判明したオンリョン人の監獄惑星ブータシャへようやく到達する一行。だが、ローダンとボスティクは、一足早く脱獄し、惑星から逃亡していた。

ブータシャには、驚くべきことにラール人の囚人がいたのだ。ラール人の故郷銀河ラルハトーンで、やはりアトプの秩序に対する潜在的“主犯格”として断罪されたヘトス原理主義者アヴェストリィ・パシク。彼は故郷における反オンリョン人組織の指導的立場にあった。
ローダンをヘトス崩壊を導いた〈ヘトールク・テッサー(すべての破壊者)〉として憎悪するアヴェストリィ・パシクではあったが、脱獄のため背に腹は代えられぬと、テラナーに力を貸す。オンリョン人の輸送艦に密航した3名は、アトプ勢力がラルハトーン=銀河系間に設置した転送駅、5つの搬送ポータルを経由してラール人の故郷銀河へ逃亡する。とはいえ、かの銀河は数百年来、アトプ法廷の支配下にあるのだが……。

〈全所の都市〉ファ・ガシャパル――宇宙のいたるところに散在する構成要素がブラヴィア門によって繋がれた、宇宙考古学者たちの世界――にいたったブルは、テラにも“門”のひとつがあることを知るが、それを利用する権限がないと宣告される。その権限を得るために、ブルは手の届くところにあった“カオタークのメモリング”で活性装置を調整、「混沌の特使」資格を得る。それが今後いかなる影響をおよぼすかはわからないが、ブルは旧外交官特区の一隅にあるローダン邸の“門”からテラニアへ生還する。
おりしも、ソル系ではアダムスが極秘に建造させていた〈ZbV艦〉(特別用途艦……シェールの小説〈特務Z機関のbためにV〉シリーズのオマージュ?)が最終艤装を終えようとしていた。搬送ポータルの途中からローダンがわずかに送れたメッセージは、友のもとへ届いていた。《スターダイヴァー》でテスト済みの新型遠距離駆動ハイパートランス・プログレッサーを搭載したZbV艦なら、2100万光年かなたのラルハトーン銀河へも問題なく往来できる。LFTの協力でオンリョン人の疑惑やテフローダーの妨害を逃れて、巨艦《ラス・ツバイ》は勇躍発進する。

一方ラルハトーンに到着したローダンらは、アヴェストリィ・パシクの暴走のため惑星ヴォルターハーゲンに不時着していた。そこで遺伝子工学者タン・デーネクに出会い、脱獄の際に右腕を失っていたボスティクは再生治療をうけるが、この惑星は西暦3581年にイホ・トロトが子を産み、戦闘で死なせてしまった場所であり、その遺伝子素材が受け継がれていた。タン・デーネク自身がハルト人因子を組み込まれた実験の産物で、彼女もまたボスティクの新しい右腕にハルト人の遺伝子を混入させていた。以後、ボスティクは右腕を構造変化する能力を発揮するとともに、しだいにその因子が全身を侵蝕していく。
帰国を焦るボスティクとは逆に、テラナーはラルハトーンの現状を知ることが、アトプ法廷について理解を深め、最終的には銀河系にも利すると考えていた。第一ヘトランである老ラール人が暗殺される場に居合わせたローダンは、ラール人の故郷たる惑星ラルハトを指し示すというアーティファクト〈ヴェクトリオン〉を託される。不審者として逮捕されたテラナーは、尋問の過程でラルハトーンを管理するアトプ裁判官の一方、サエカエルと対面。アトプが〈時の彼方の国々〉と呼ばれる場所から来ること、そこは裁判官の船でないと到達できないこと、裁判官船を操縦できるのは“物質の泉の彼岸へいたった体験のある者”のみであることを知らされる。ローダンの知る限りの該当者はただひとり、アルコン人アトランだけだ。

《ラス・ツバイ》は搬送ポータルを経由してラルハトーン銀河へ到着。モールス信号をハイパー波で流している惑星でローダンらのブータシャ脱獄を援助した糸状生命体と遭遇したり、幸運もあってローダン、ボスティクとの合流に成功した。だが、長い付き合いのブルやグッキー、血縁のあるファリエ・セフェロア、生命エネルギーを感知できるトイオ・ジンデル……多くの人がローダンに違和感を感じる。
実はこのローダンは〈黒のバックトウ〉という、裁判官サエカエルがいずこの世界からか収容してきた結晶・岩石からなる未完の生命体。テラナーの案内役のはずが、しだいにその姿に擬態し、ついにはローダンとの入れ替わりを図ったらしい。本物のローダンを奪回すべく、イホ・トロトらが裁判官船《ケッマ・ドゥルガ》に突入。サエカエルにはローダンを拘束するつもりはないらしく、作戦はぶじ終了。《ラス・ツバイ》の指揮はローダンが引き継ぎ、ブルは活性装置を感知できるトイオ・ジンデルを連れて、現在ワンダラーにいるアトランを呼び戻すための情報を求めて〈全所の都市〉へむかう。

ローダン率いる《ラス・ツバイ》は、リパルサー・ウォールに包まれたラルハトーン中枢部へ。その中央惑星ショルは公会議時代から続くケロスカー世界であり、また2名1組で活動するアトプ裁判官の一方、通称“クリスタル裁判官”がいるという。途上、惑星ヴラエラに出現したクリスタル裁判官――背中で融合した3人のヒューマノイドのような姿――が人々を治療し、死者を蘇生すらするのを目撃するが、それはアヴァターのようなもので、本体は惑星ショルを動くことはないらしい。
コチド星系第2惑星ショルは、衛星軌道を〈宇宙球コスモグローブ〉と呼ばれる直径1883mの球体2基が周回していた。テクノメッシュに覆われた第1惑星ペンパルゼンから制御され、一方はアトプ船のみが進入可能な〈時の彼方の地〉への入口であるらしい。もう一方では、ラール人の先祖にあたる原ラール人の世代船《光でいっぱいの手》が亜光速で航行中。太古の銀河系から訪れた危機から救われたものだというが、詳細は不明。
ケロスカーの都市を訪れたローダンらは、7次元数学を扱えないという障碍を抱えたゴルドロディンと出会う。彼の語るところによれば、現在、ケロスカーからクリスタル裁判官が生まれようとしている。障碍者であるゴルドロディンは参加できないが、クリスタル裁判官は自らの誕生に立ち会うために、はるか未来からやってきたのだという。
ゴルドロディンはギャラクティカーに協力的で、現地のオンリョン人に危険視された一行を、自作のフィクティヴ転送機〈クレーン〉で救出、《ラス・ツバイ》に同行することとなった。

一方、クイックシルバーの案内でラルハトーンの“門”を経由してファ・ガシャパルに渡ったブル一行は、どうにかワンダラーの現座標の情報を入手。しかし活性チップの“混沌寄り”調整が因でトラブルを起こし、逃げるようにアンドロ=ガンマへ転移する。商船をチャーターしてたどりついたワンダラーでも、“混沌寄り”のために立入を拒絶され、一時チップを摘出するはめになる。
機械都市アムブル=カルブシュでブルは、ヴァトロックスとの戦いと〈タリン〉との分裂でトラウマを負った〈それ〉の意識片……個々の意識プロジェクションのカウンセリングを続けていたアトランと再会する。本来あと数百年はかかるであろう仕事を途中で放棄すれば、多くの意識片が最終的な死をむかえることは明らか。そのひとり、スーザン・ローダンは、しかし、アトランが去ることに反対しなかった。ただ、『《ソル》のミッションは失敗し、マイクルは父の助けを必要としている』とだけ告げた。
アトランとブルはまた、かつてエルンスト・エラートが〈それ〉の使者として〈テズの国々の代官たち〉のもとを訪れたことを知らされる。〈それ〉は参画を断ったのだが、伝説的な“最初の超知性体”を捜すため、時間を超越した場所、一種の〈アトピー〉を創造するというプランが語られたらしい……。

銀河系では、アトプの後ろ盾を得たヴェトリス=モラウドの新タマニウムが影響力を増していた。場合によっては、アトプの方針にすら逆らう“マガン”に光明を見出すものも多く、テフローダー以外にもその庇護を求める種族が出てくる。惑星ハルトでは、オルドの碑の設置を棚上げにすることによって、ハルト人にすら貸しをつくった。
その一方で、テフローダーの撒いたウィルスによるポスビの混乱は悪化の一途をたどっていた。暗黒惑星エヴァブラックでその惨状を目の当たりにした《クルーゼンシュタイン》のクルーは、ウィルスの開発者がヴェトリス=モラウドと関係の深いエイレシオニ種族であることを知り、その母星エイをめざした。

ブルが連れかえったアトランも合流した《ラス・ツバイ》では、再度の《ケッマ・ドゥルガ》潜入作戦が論じられていた。前段階として、ヘトス原理主義者の協力を得るため、公開処刑されようとしている構成員の救出を計画。作戦自体は、そもそもがオルドの碑を破壊するための自爆テロが目的だったこともあり不調に終わるが、アヴェストリィ・パシクとも合流し、裁判官船奪取に動くことになる。また、その過程でローダンらは、ヘトールク・テッサーと対になる概念〈ヘトールク・レハーン〉――“すべてを救うもの”、“救世主”――を知る。
《ケッマ・ドゥルガ》に侵入したアトランは、〈白のバックトウ〉らの協力もあって裁判官船を操縦するのに必要な〈メンタル・キー〉を取得。彼に関心を抱いた裁判官サエカエルに招かれ、対話を重ねる。一方でアヴェストリィ・パシクはヴェクトリオンの導きもあり、アーティファクトの骨針と同系統の、圧縮された肋骨とおぼしき遺物を確保する。
サエカエルの回想――700億年の未来、通過不可能な障壁に包まれた〈インフィニトゥム〉と化したラルハトーンに、時空の裂け目から落ちてきた1体のミイラ。時間を逆回しにするように復活したそれは“死を越えた希望サエカエル”と呼ばれ、やがて〈テズ〉の命をうけ〈時の彼方の国々〉へ渡るとアトプの裁判官となって《ケッマ・ドゥルガ》を与えられた。クリスタル裁判官とともに戻った先は、〈インフィニトゥム〉ではなく、はるか過去のラルハトーン銀河。以後、ラルハトーンが正しく〈インフィニトゥム〉へと至るよう導いてきた。
アトランの指摘をうけたサエカエルは、自らが郷愁の念を抱いていたことを自覚。ローダン、アトラン、アヴェストリィ・パシクらを撤収させたあと、《ケッマ・ドゥルガ》は宇宙球の一方から共時性の通路へと消えた。奪うべき裁判官船は、もはやラルハトーンには存在しない。《ラス・ツバイ》は、ラール人第一次文明の手がかりを調査したいヘトス原理主義者の船とともに銀河系へ帰還することに。
なお、活性チップの“調整”を不安視するブルは別行動を取り、対アトプ法廷の共闘態勢について、ヘトス原理主義者やラール人政府と交渉する道を選ぶ。

銀河系に帰投した《ラス・ツバイ》は、惑星オリンプの地下遺跡に調査隊を派遣。太古、すべての生命を脅かす危機に対処したとされるラール人第一次文明の秘密区画を発見する。一部の記録から〈暴徒の帝国〉という表現と、ソル星系の関与が示唆された。
一方、影響力拡大を続ける新タマニウムにも陰謀の陰があり、プロヴコン=ファウストではテフローダー過激派によるヴェトリス=モラウド暗殺の試みがあやういところで阻止された。ヴェトリス=モラウドは島の王の二銀河支配を目標に、あるものを集めていた。旧島の王ファクターIV、ゼノ・コルチンのÜBSEF定数を宿した彫像である。一定数集めれば、ゼノ・コルチンの意識が復活するとされ、野望達成の助言者にしようというのだ。実験は暴走するが、ファクターIVの精神は覚醒。一方で、新USOとともに潜入していたグッキーは、致命傷を負った〈フォー・コンクァラーズ〉最後のひとり、ラン・メオタから〈パラドックス・テレポーター〉としての能力を“パラ泥棒”する。若干の異同はあれど、テレパシー・テレキネシス・テレポーテーションの能力をイルトは取り戻した。

〈時の彼方の国々〉へといたるための裁判官船として、アトランらは裁判官クヴの船《クヴァンク》を標的にさだめていた。クヴが拠点とするバーグ星系(旧アルコン)では、マタン・アダルの拠点、テクノメッシュに覆われたルナが到着、惑星ナートの衛星となっており、アルコンIIIを“昇華”する一大プロジェクトが進行していた。〈アトプ導体コンダクター〉……ラルハトーンの宇宙球に相当する、共時性通路シンクロニーへの入口である。
作戦ウルティマ・マルゴの準備が進む中、ギャラクティカーにとって幸運な偶然もあった。オルドの碑強奪事件の際、オンリョン人に化けて潜入中のTLD長官アッティラ・レッコル――もともとはトライトア所属の変身能力者種族コーダ・アラティアの末裔――が功績を認められ、バーグ星系防衛部隊のオンリョン人指揮官に昇進したのだ。また、オルドの碑との対話で、太古銀河系で起きた戦争にからむ〈ティウの果て知らずの帝国〉の名と、オンリョン人はその大戦の生き残りであるという知見を得た。

リパルサー・ウォールに包まれたバーグ星系から《クヴァンク》をおびき出すため、ギャラクティカー側はボスティクが銀河系艦隊を率いて、ナート人の植民星系ナータを強襲。オルドの碑を破壊するため、惑星破壊兵器テスリム弾を投入する。裁判官クヴの細胞片の分析から、彼はパッチワークのような存在だが、一部にナート人の遺伝子が混ざっているという。先祖の危機に介入しないはずがない。
目論みどおり出現した《クヴァンク》はテスリム弾を迎撃するが、そのエネルギーが枯渇したところで《ラス・ツバイ》から突入部隊を転送。艦内で激戦がくりひろげられる中、グッキーがラン・メオタから得たテレプシマート能力で、アラス謹製の〈光遺伝子作用体〉をクヴ体内へ送り込み、行動を束縛する。クヴが“乗っ取られた”ことを察知した部下が裁判官を殺害、《クヴァンク》を破壊しようとするがこれは阻止された。クヴの死を受け入れた《クヴァンク》の艦載脳アンクは、アトランを次なる操縦士と認識し、裁判官船は《アトランク》へと生まれ変わる。
《クヴァンク》の用いた転送機通路を利用してバーグ星系へ移行した《アトランク》。そこはクヴが受け入れたナータ難民にまぎれた工作員たちによって混沌としていた。防衛側を率いるアッティラ・レッコルもそれを助長する。マタン・アダルの裁判官船《233-コルプコル》が駆けつけるが、アトプ導体の制御衛星ルナからのネーサンの援護もあり、艦内マイクロ宇宙に《ラス・ツバイ》とアヴェストリィ・パシクの《ラルハトーン》を収容した《アトランク》は間一髪、アトプ導体から共時性通路へと突入する。超越者〈テズ〉の座す、〈時の彼方の国々〉をめざして。

Posted by psytoh