失われたヘスペリデスの贈り物

ローダン

〈失われたヘスペリデスの贈り物(Verlorene Geschenke der Hesperiden)〉はエスタルトゥ12銀河のひとつムウンの奇蹟。現地名は〈失われたエスタルトゥの贈り物〉。本来は惑星エピクゾルに貯蔵された超知性体のハイテク機器。奇蹟エンジニア種族ナックの操作か、あるいは独自のAIか、個々が意志をもって行動可能。超光速による銀河間航行すら可能である。

《ツナミ》乗員の知識をデータベースとして持つストーカーが、ムウンの奇蹟の広告素材として選択したモチーフがヘスペリデス。ギリシア神話で一説にアトラスの娘とされるニンフの姉妹たちのこと。世界の西の果てにある“ヘスペリデスの園”で、へーラーがゼウスに贈られた黄金の林檎(オレンジ)の木の世話をしている(番人役は別にいる)。マイナーだがヘラクレスの逸話にも登場。

なぜハヤカワ版が“ヘスペリデス”という固有名詞を避けたかは不明だが、「ヘスペリデスの贈り物」とは即ち黄金の林檎のメタファーであり、トロイア戦争の発端ともなった果実のもたらすものを象徴しているーー“不和”だ。
この奇蹟のネーミングのキモはそこなのだが……。

1335話でGOIの迎撃を逃れてイーストサイドへ到達したヘスペリデスはブルー人の多くを感化し、銀河系内部に不和の種をまく。ギャラクティカム内部の分裂と、“恒久紛争”の導火線としてハルト討伐という内戦をひきおこそうというものだ。
また、少し先の話だが、再びエスタルトゥの銀河が舞台になる際に、エピクゾルの“贈り物”がとある人物に助力を与えたというエピソードが明らかになる。しかし、彼らの力をもってしても、〈ソト〉と〈デソト〉の間に穿たれた溝は埋めようがなかった。まあ、本来不和をもたらすものだからしょうがないね、というお話(おい

話はちがうが、ヘスペリデス云々はさておいても、ハヤカワ版が選んだ〈番人の失われた贈り物〉という訳語には、個人的に大きな不満がある。語順である。
『タルカンが呼ぶ!』をまとめた際に、奇蹟のネーミングについてはいろいろと悩んだ。ヘスペリデスについては、Hesperidengeschenke(ヘスペリデスプレゼント。いぶし銀だろ?)という語も用いられるので、「(本来あるべき場所から)失われた」「ヘスペリデス(エスタルトゥ)の贈り物」であるという結論に達した。
※惑星エピクゾルが出てくるのは1500話台。

しかしハヤカワ版だと「番人の失われた」「贈り物」と読めてしまう。訳語を決めたヒトは、おそらくPerrypediaも読んでないし、ストーカーのプロモーターとしての努力も顧みない。残念なことである。

Posted by psytoh